印刷メディア展page2024が2月14日から16日まで、東京・東池袋のサンシャインシティで開かれ、148社の出展と2万1580人の来場者を集めた。インクジェット/トナー方式のデジタル印刷機、150線高精細印刷や無処理版などのオフセット印刷ソリューション、ワークフローやMIS(基幹システム)などのシステムが多数出展された同展を、技術解説を交えながら紹介する。

京セラ、理想科学などがインクジェット実機展示

現在、印刷技術のトレンドとして最も注目されているのは、インクジェット印刷機、厳密にはワンパス方式のインクジェット印刷機である。ヘッドが往復して大判のポスターなどもこなす従来のシャトル方式と違い、バー状にヘッドを並べ、搬送した用紙をワンパスで印刷するワンパス方式は、オフセットに匹敵する生産性とバリアブル機能を兼ね備える次世代印刷機として注目されてきた。

現在、枚葉インクジェットのワンパス方式で印刷業界をリードしているのは、富士フイルムグラフィックソリューションズ㈱の「Jet Press」シリーズと思われる。「Jet Press 750S」は、B2毎時3600枚の生産性と1200dpi×1200dpiの解像度を武器に、写真アルバムや色校正、紙器などの分野で活躍している。

京セラドキュメントソリューションズジャパン㈱も2020年からプロダクション向けのインクジェット印刷機を上市しているが、今回のpage2024で初出展したのが「TASKalfa Pro 55000c」である。用紙はA3寸延まで対応でき、毎時A4換算9000枚の生産性を誇る。解像度は1200dpi×1200dpi。「Jet Press」との違いはプレコートなしでコート紙などの印刷用紙にインクを定着させることである。プレコートを引くと定着性は上がるものの印刷用紙の風合が損なわれるともいわれており、どちらが良いかは判断が分かれる。

京セラの枚葉インクジェット印刷機「TASKalfa Pro 55000c」

解像度とスピードはトレードオフの関係にあるといってよい。理想科学工業㈱の枚葉インクジェット印刷機「VALEZUS T2200」は解像度300dpi×300dpiであるが、反転機構も付いているため印刷エンジン2台装備で両面毎分330枚という高速印刷を可能としている。明らかに明細書系のカラー印刷物をターゲットにしていると思われる。筐体もコンパクトで100V電源対応のため、小規模のBPO業者やフォーム会社のセカンド機など汎用度も高そうだ。

理想科学工業㈱の枚葉インクジェット印刷機「VALEZUS T2200」

オフセットと同様に、ロール給紙になると生産性をさらに増すことができる。コダックジャパンの「KODAK PROSPER ULTRA 520 PRESS」になると解像度600dpi×1800dpiを維持しながらB2換算毎時1万2950ページをロングランでこなす。コダックジャパンでは印刷サンプルを展示していたが、DMだけでなくフォトブックまでこなせてしまう品質もある。中小印刷会社が簡単に導入できる設備ではないが、モノクロのプリントヘッドモジュールをインラインに設置してDMに宛名印字することなどもできる。1色プリントヘッドの「DOMINO K600i」(ブラザー工業㈱)も世界で約1000台の導入実績があり、600dpiで様々な印字幅・速度に対応したモジュール化ができる。

無人化・自動化進むトナー印刷機の工程

トナー機では液体トナー機のIndigoを擁するHPが出展を見合わせた一方、富士フイルムビジネスイノベーション㈱、キヤノンマーケティングジャパン㈱、コニカミノルタジャパン㈱、リコージャパン㈱などの粉体トナー機ベンダーのフラッグシップ機が勢ぞろいした。

キヤノンマーケティングジャパン㈱は「印刷の未来を切り拓く~インクジェットテクノロジーでビジネスに変革を~」をテーマにインクジェット機「varioPRINT iX3200」のサンプルや最新情報を提供していたが、トナー機の「imagePRESS」シリーズの実機出展が目立った。給紙部に封筒フィーダーを設置したり、インラインで全数検査を行なったり、デリバリーでAGV(無人搬送車)で製本ラインとつないだり自動化・無人化に力点を置いている点が説得力があった。特にホリゾンの製本ラインを自動化した実演により、いよいよペーパーバックのオンデマンド印刷、いわゆるブック・オブ・ワンの普及が近づいてきた感があった。

AGV(無人搬送車)による自動製本ライン

富士フイルムビジネスイノベーション㈱の「Revoria Press PC1120」も6色でも毎分120ページをこなす広色域・高生産印刷で存在感を示したし、コニカミノルタジャパン㈱の「AccurioPress C84hc」やリコー・ジャパン㈱の「RICOH Pro C9500」などのフラッグシップ機も注目を集めていた。

富士フイルムの粉体トナー機「Revoria Press PC1120」

ガム処理版CTPが存在感示す

オフセット印刷機の実機展示はなく、出展もハイデルベルグ・ジャパン㈱のみだった。

ハイデルベルグ・ジャパン㈱は7色プロセス印刷「マルチカラー」を提案していた。かつての広色域印刷のように商業印刷ではなく、パッケージの特色対応にターゲットを絞っているようだ。プロセス7色で特色をカバーすることで、通常の生産工程で特色をこなし、調色や廃棄コストを省くことができる。また150線ながらも複数のドットで高精細印刷を可能にするスクリーニング方式「マルチドット」も、インキ量20%以上の削減など、省資源・環境対応にアピールの重点を置いているようだ。

現像機/現像液不要のいわゆる無処理版はコダックジャパンとエコスリージャパン㈱が提案していた。コダックはいまやCTP版の6割以上が無処理版とのことで、特に新聞印刷などで普及が進んでいるようだ。

コダックジャパンも富士フイルムグラフィックソリューションズ㈱も無処理版は印刷機の立ち上がり損紙のインキと湿し水でデブリを除去する機上現像方式であるが、エコスリージャパン㈱はガム処理工程でデブリを洗い流すガミング方式である。同社は一般の方式も機上現像方式も提供しているが、担当者によると、その進化系であり、パテントで守られた技術こそガミング方式であるという。ガミングは版を保護する必要な工程であり、機上でのデブリはローラーなどに残り生産現場には必ずしも良くない――と概要話していた。社会の要請からすると処理液を一切必要としない無処理版なのかもしれないが、生産現場の声を聞くことも重要であると感じた。

アジャイルな生産管理を

MIS(基幹システム)は「プリントサピエンス」(J SPIRITS)や「ひだりうちわ」(トスバックシステムズ)などの大がかりのものから、「Printact」(㈱両毛システムズ)、「PrintManager」(㈱ビジネスイーブレーン)などの比較的導入しやすいものまでさまざまだった。この価格競争の時代に利益を絞り出すには緻密な原価計算が必要であるという意見の一方で、製品からソリューションに提供するものが移行してきている変化の激しいビジネス環境のなかでは、かえって安価なシステムをつなぎ合わせてアジャイルに(機敏に)体制を変えていかなければならないという意見もある。事実、㈱ビジネスイーブレーンは市販の請求書発行クラウド「楽楽明細」と組み合わせた提案を行っていた。

インクジェット印刷に戻ると、いわゆるシャトル方式の大判インクジェットは㈱ミマキエンジニアリング、エプソン販売㈱、ローランド.ディー.ジー㈱、エコスリー・ジャパン㈱、キヤノンマーケティングジャパン㈱など各社から出展されていた。㈱イメージ・マジックはフィルム転写のアパレルプリントやグッズなどを紹介していた。

私は2日目しか取材していないが、2日目だけでも7000人強の来場者数で会場は活気に満ちた。今年はdrupaの年で来場者数の減少も危惧されたが杞憂に終わった。将来の印刷技術を占う国際見本市にも興味があるが、やはり導入可能な実機を目にしてみたいという要望は多いのだろう。

今回のトレンドをあえて言葉にすれば、「スキルレス」であろう。デジタル印刷機のインライン検査装置はもちろん、フィーダーにもアームロボットや封筒フィーダーなどの機械が付き、製本ラインにもAGVで無人化を実現していた。これらの技術によって省人化・スキルレスが進む。このことは印刷業界にとってどう影響するのか、しっかり見極めなければならない。印刷業者がコールセンターなどのBPOに進出するように、BPO業者も請求書プリンターをスキルレスで運用するかもしれない。業界の境界線が消える可能性があるのだ。

結局、仕事を回す仕組みと、需要を掘り起こす仕組みの両方がなければ、いくらプリンターの性能が上がっても、需要はシュリンクしてしまう。需要を掘り起こすのはメーカー・ベンダーではなく、他ならぬ印刷会社の役割だと思う。(了)

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