地域の街並みをイラストで紹介し、地域振興を目指す印刷会社による全国組織「一般社団法人マーチング委員会」が13年目を迎えた。㈱TONEGAWA(東京・文京区)現社長の利根川英二氏が中心となってはじまった活動は、いまや北海道から九州まで全国53カ所にまで拡大し、まちおこしの成功事例の共有、インバウンド創出など事業の幅を広げている。
イラストで地域活性化
一般社団法人マーチング委員会は、当時利根川印刷(現TONEGAWA)の副社長だった利根川英二氏が、湯島・本郷のさりげない景色をイラストにし、PODで絵はがきやカレンダーとして製作・販売する「湯島本郷百景」プロジェクトを起こしたことがはじまり。地域密着型印刷会社としての原点回帰を目指した活動は自治体などから注目され、切手として販売されたり、文京区役所や湯島天満宮で展示会が開かれたりした。この地域振興モデルが印刷業界でも注目され、全国各地で委員会が発足し、2011年にマーチング委員会が発足、翌2012年には一般社団法人化された。
淡くさりげないタッチで統一されたイラストが全国各地から集まったことで情報を一元発信でき、ブランディングにもつながっている。2015年には季刊情報誌「inJapan」を創刊、現在は「地域のたからを全国へ、世界へ」をキャッチフレーズに、「inJapan Next」として情報発信している。
マーチング委員会の大きな特徴は、全国の印刷会社が地域活性モデルを共有できる点だ。地場の印刷会社同士ではなかなか情報交換できないことも、バッティングしない全国の印刷会社同士では惜しみなく情報交換できる。一般社団法人マーチング委員会では定期的に全国各地を回り、事例研究や勉強会、運営会社の見学や散策などを行っている。
ECサイトで世界展開へ
2024年2月22日、今年度のキックオフとなる第13回一般社団法人マーチング委員会定時総会がリコージャパン田町第2事業所で開かれ、全国のメンバーら約30人が参加した。井上雅博理事長(甲斐の国マーチング委員会/アドヴォネクスト)のあいさつのあと、利根川理事塾長から事業報告・事業計画案がなされ、質疑応答のあと全会一致で承認された。
瀬田章弘理事(あだちマーチング委員会)からは季刊情報誌「inJapanNext」の今後の展開について説明があった。夏号は「食」、秋号は「観光+食」、冬号は「観光」を特集ページに立て、地域のおたから紹介、本部からの情報などを盛り込む。各会員は表紙デザインのイラストを差し替えてオウンドメディアとして活用できる。
日比野薫理事(浜松町・芝・大門マーチング委員会)からはマーチングアカデミー塾について報告がなされた。2022年に兵庫県姫路市/高砂市(ひょうご南部マーチング委員会/丸山印刷)、埼玉県行田市(豊島マーチング委員会/コスモプリンツ)、2023年に静岡県静岡市(駿河の国マーチング委員会/日本レーベル印刷)、山梨県甲府市/中央市(甲斐の国マーチング委員会=アドヴォネクスト)、東京都港区芝地区(浜松町・芝・大門マーチング委員会/コニカミノルタジャパン)を見学した。2024年は4月にいわきマーチング委員会/いわき印刷企画センター、6月にしもつけの心マーチング委員会/井上総合印刷が主導して現地開催する。
宮嵜佳昭理事(さぬきマーチング委員会/ミヤプロ)からはECサイトのゼンプラスに出店し、はがきセット・Tシャツ・日本酒などをセットで1万円以上の値付けをして海外に販売することなどが発表された。
事例発表としては津軽ひろさきマーチング委員会/アサヒ印刷)が大手流通会社とタイアップして年賀状やご当地ガチャ(グッズの入ったカプセル自動販売機)を展開している例などを紹介した。
地域解決プラットフォームに
元NHKディレクターの三木佳世子氏(MiraiE代表)とビジネスモデル・ファシリテーターの並木将央氏(ロードフロンティア代表)によるセミナーとパネルディスカッションも開かれた。三木氏の「優位性」「社会性」「意外性」を兼ね備えた情報がマスメディア等でも取り上げられやすいという趣旨や、並木氏の「孤高の人材の集団を作るべき」との趣旨には多くの参加者が賛同し、質問が飛び交った。並木氏はマーチングアカデミー塾など今年度計6回のセミナーを予定している。
印刷会社には地域情報のハブとしての役割が求められてきている。各々の地域の特徴を生かしながら、ビジネスモデルで共有する全国組織には可能性を感じる。利根川理事塾長は「成熟社会という時代にあわせ、地域社会のイノベーションをメンバーが全国で展開できるよう、『地域解決のプラットフォームづくり』を目指しています。九州の各地域、特に現在は佐賀県と鹿児島県の参加企業がないので、ぜひメンバーに加わっていただきたいと思います」と話している。