「くまもと産業復興エキスポ」が2024年2月28日・29日、熊本県上益城郡益城町のグランメッセ熊本で開かれた。台湾の半導体受託製造の最大手TSMCの工場誘致で沸く熊本経済を反映して、半導体関連会社が79社出展するなど、まさに半導体の話題一色の感があった。印刷関連企業からはトッパン、富士フイルム、レイメイ藤井などが出展した。
シリコンアイランド復活に向けて
クリーンルームだけで東京ドーム1個分の4万5000平方メートルを有するTSMCグループの熊本工場(菊陽町)。2月24日に開所式が行われ、12月中にも稼働する予定だ。2021年の誘致が決まってから九州の半導体の製造設備投資が進み、2021年から10年間の九州の経済効果は20兆770億円ともいわれる。
「くまもと産業復興エキスポ」ではそうした背景から、ビジネスマンのみならず学生や一般市民の来場も目立った。来場者の多くの一番の目当てはTSMCの子会社であるJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社)のブースで、プレゼンテーションは採用担当による学生向けだったのにも関わらず、多くの一般市民も聴講していた。
TSMCはiPhoneの最新モデルのCPUの全量を供給し、NVIDIAの半導体の製造もすべて手掛けている世界最大手の半導体受託製造会社である。TSMCが過半数を出資するJASMの熊本工場は、「走る半導体」と言われ、ガソリン車でも半導体が1000個埋め込まれているといわれる自動車と、スマートフォンという日本においてもっとも需要が高いと見込まれる分野に適した22/28㎚、12/16㎚の生産を行う。採用担当によると製造を行うクリーンルームはAIによる自動化が徹底しており、自動搬送車が毎日地球7周分走っているという。社員はオフィス棟で勤務し、万が一トラブルがあったらクリーンルームに入るというイメージだそうだ。
多くの工程を経て作られる半導体はクラスター効果が高く、九州の半導体・自動車産業の復活にもつながる。蒲島郁夫熊本県知事は「世界的半導体企業の進出や関連産業の集積に伴う経済波及効果により、熊本は100年に1度のビッグチャンスを迎えている。この効果を県内はもとより、九州全体に拡げ、「新生シリコンアイランド九州」の実現を目指す」と話している。富士フイルムのブースでは熊本県菊陽町の富士フイルムマテリアルマニュファクチャリング九州エリア(FFMT九州エリア)が1月25日にCMPスラリー(半導体の研磨剤)の生産設備を本格稼働させたことを発表していた。
トッパンは安全管理ソリューションを提案
トッパングループはフォトマスクやパッケージング基板を製造し、熊本県玉名市には㈱トッパンエレクトロニクスプロダクツの熊本工場を擁しているが、ブースでは生産現場の安全管理ツールや資材の提案が目立った。
「安全道場VR」は作業員にヘッドマウントディスプレイで工場の労災を疑似体験してもらうVR教育ツール。工場ごとにカスタマイズもできるが、あらゆる生産現場で共通する10の労災事故(カッター切創、機械稼働、高所落下、エアブロー清掃、可燃性溶剤火災、機械点検、機械清掃、フィルター交換、ホース交換、一斗缶取扱い)にコンテンツを絞り、ヘッドマウントディスプレイに収録しているため、税別25万円という低価格を実現している。近年の外国人労働者の教育にも適した多言語対応も強みだ。すでに約100社の生産現場で採用されているという。
「e-Platch」は工場の点検作業を省力化するシステムで、既設のアナログ計測器にセンサーを設置し、閾値を超えた時点で自動でアラートメールが送信される。そのためこれまでアナログ計測器を目視で点検していた作業が大幅に削減できる。
深谷工場とアメリカ・ジョージア工場のほか、福岡工場でも製造されているバリアフィルム「GL BARRIER」は飲料やレトルト食品のパッケージの保存性を高める資材として知られているが、今回は電子部品などの包装にも活用されていることが紹介された。
その他、熊本市に本店を置くレイメイ藤井は、2023年9月に熊本ヤマハと合弁で「株式会社アグリテックレイメイ」を設立し、農業ビジネスに参入、2024年1月に熊本県合志市の協定を結び、ドローン散布などを活用した営農を行うことを紹介していた。
採用ブランディングが重要に
多くのビジネスパーソンや市民に交じって、就活生ら学生の姿も多くみられた。多くのブースでは「学生歓迎」のマークが掲げられ、学生たちはメモを取りながら熱心に話を聞いていた。
大学も数多く出展し、強みをアピールしていた。もちろんJASMも「英語や半導体の知識がなくても大丈夫」「一人一人のバディが付いて相談に乗るから安心して」などの訴求を行っていた。就職は完全に売り手市場になるだろう。
その一方、JASMの採用人数が来年度も250人弱と、工場の規模の割には少ないようにも感じた。前述のように最新の工場は自動化・無人化が進んでいる。工場を誘致すれば即雇用が大量に生まれ、地域を潤すとは限らない時代になった。
企業にとって魅力のある人材は、魅力のある企業に取られてしまうだろう。印刷業界にとって、魅力ある企業として就活生にアピールするために採用ブランディングを強化しなければならないと感じた。