内田信吾氏

長崎市の印刷会社である株式会社インテックスが運営する「ながさきマーチング委員会」は2011年の発足いらい、地元の街並みのイラストの展示会をはじめ、イラストをあしらった絵はがき、書店のブックカバー、名刺への採用などを通じて、地域活性化の取り組みを行ってきた。2024年4月から1年間、長崎商工会議所の会報誌にイラストが採用されることも決定した。同社の内田信吾社長に、ながさきマーチング委員会13年の歩みを聞いた。

「長崎で商売をやっているのだから、長崎が良くならないと」

――2024年4月号から1年間、長崎商工会議所の会報誌の表紙に「ながさき百景」が採用されることが決まりました。

内田 とても嬉しいという気持ちと、「ながさき百景」を続けてきて13年、ようやくここまできたかと、報われた気持ちになりました。長崎市の約4000の事業所に配布されています。このタイミングをとらえて、どう認知を広げていくのかが重要です。コロナ禍で中断していた「ながさき百景」のイラスト展示会も順次再開していく予定です。

――今回はあらためて「ながさきマーチング委員会」の13年間の歩みを伺いたいと思います。まず内田社長のご経歴から伺います。

内田 1966年長崎市に生まれ、長崎市で育ちました。東京の写真の学校(東京工芸大学短期大学部写真応用科)を卒業後、カメラマンの仕事をしました。日本プリンティングアカデミーに入学したのは28歳のころで、18歳の同級生と机を並べて勉強していました。1995年にインテックスに入社、2017年に2代目の社長になりました。

――御社には撮影スタジオもありますが、カメラマンの経験を生かされて事業領域を拡大されているのですか。

内田 いえ、まだまだ印刷が主です。付帯事業としてスチール撮影や動画制作、Webの制作まで行って、事業領域を広げようと努力しているところです。

――2011年にマーチング委員会に加盟されましたが、もともと地域活性化事業に関心があったのですか。

内田 長崎で商売をやっているのだから、長崎が良くならないと。当社のお客様はほとんどが長崎県内の企業・団体様なので、地域に根差したやり方でやっていかないと難しいとは常日ごろ考えていました。そうしたところ、利根川さん(利根川英二・現マーチング委員会塾長)がこうした取り組みをしていることを知り、東京までお話を聞きに行ったのがきっかけです。

最初の2年間は、社内では先義後利や地域活性、CSR等への理解が得られなかったので、私個人で活動していました。「ひとりマーチング委員会」ですね。個人でお金を出して、イラストを頼んで、地元銀行の支店のロビーや商店街のアーケードで展示会を開いてもらったところ、地元のテレビや雑誌、新聞に取り上げていただいて、絵はがきの売上もある程度立つようになって、ようやく会社としてながさきマーチング委員会の活動を行うようになりました。

長崎商工会議所の表紙に採用された

地元企業のファンづくりのお手伝い

――長崎は観光資源も豊富ですし、絵はがきも売れているのでは。

内田 そうですね。他の地域と比べてもおそらく売れているのではないでしょうか。グラバー園や出島といった観光スポットに置いていただいているのですが、ショップの方にお聞きすると、「ながさき百景」の絵はがきが一番売れているとおっしゃっていました。写真のポストカードが多いなか、「ながさき百景」の温かみのある水彩画が目を引くのでしょうね。

長崎は観光やランドマーク的な印象が強いですが、長崎で生まれ育った私たちにとっては、長崎の魅力はもっと身近な日常の風景にあって、普段見慣れた風景や近所のお店、路地裏の小道、想い出の場所、、、そんな風景に懐かしさや温かさを感じてもらい、長崎の魅力を改めて感じてもらいたいと思ってます。

イラスト展では、地元の人たちに足を止めてもらい、自分たちが過ごした街のイラストを見ながら、想い出を語り合っているのが印象的でした。

――絵はがき以外に展開されていることは。

内田 長崎大学経済学部のゼミ生が考案した就活用名刺「ハツメイシ」にイラストを提供したり、地元書店のブックカバーにイラストが採用されたり等の事例があります。地元の方々と活動を通じてつながったことは大きな成果だと思います。また、お酒のラベルや包装紙などに採用していただこうと活動しています。

――長崎は西九州新幹線が開通したり、インバウンドが絶好調であったりしていますが、景況はいかがですか。

内田 いや、景況は悪いですよ。インバウンドといっても観光客は豪華客船で団体で来られて、観光地を巡って免税店で買い物をされて、夕方には船に戻られてしまう。せめて夕食や宿泊をしていただかないと地元の商店にお金を落とすことが少ない。商業施設やスポーツ施設が次々に建って話題になっていますが、長崎県の人口は毎年減っているのに、そこに雇用が数千人単位で取られてしまう。そうすると人件費が高騰して、地元企業は人手不足で何もできなくなってしまう。

――人材確保も大きな課題ですね。

内田 ただ課題があれば、そこにビジネスチャンスがあると思っています。地元企業の話題づくりをしてファンを増やせば、親近感を感じリクルートもしやすくなる。長崎の企業が元気になる。そのお手伝いをするために今、チームを組んで走り出しています。具体的に成果が出次第、みなさまと共有したいと思っています。

企業の困りごとに真摯に応える

――長崎といえば印刷業界では近代活版印刷の父・本木昌造が有名です。

内田 今年は本木先生の生誕200周年で、来年が没後150年です。長崎県印刷工業組合でも、本木先生の顕彰を通じて、業界の地位向上に努めていきたいと思っています。

ただ、印刷業というのは、紙に刷って納めるのが仕事ではないですよね。そこをはき違えてはいけないと思います。モノづくりの面白さはありますが、お客様のお悩みごと、課題を解決するのが役割だと思います。

先ほどの人材確保もそうですが、時代時代で地元企業の課題も変わってくる。その課題に応えるために、いかに日々真摯に学び続けるか、取り組めるかが重要だと思っています。印刷の枠にとらわれるのではなく。

――最後に印刷業界へのメッセージを。

内田 メタバースはひょっとしたらブームかしれませんが、生成AIは印刷業界にMacintosh(によるDTP)以来の、いやそれ以上の衝撃を与えると思います。

文章作成、校正、画像作成/処理、動画制作、ホームページ作成、コーディング作業、デザイン、企画書作成等といった私たちが得意とする付加価値を生み出す仕事は、複数年後には生成AIによって誰でもできる作業となっているでしょう。
生成AIを使いこなして、より良いものをお届けする、また印刷という枠だけに捉われることなく、地域や企業の課題に目を向けることが、地域密着型の産業である印刷会社ができることだと思います。

マーチング委員会に関しては地域の魅力を見つけ出し、それを地域の方と共有できるように地道な活動を続けていきたいと思っています。

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