熊本県益城町の中堅印刷会社である株式会社城野印刷所は、2023年1月に大分県大分市の三恵印刷をM&A、2024年2月に熊本県八代市の緒方印刷所とパートナーシップ契約するなど、九州の印刷会社とのアライアンスを深めている。「九州のシンクタンクを目指す」と話す城野斉社長に、その狙いを聞いた。(聞き手=光山忠良)
卒業アルバム製作という「使命」
――御社は1916年、コロタイプ印刷専業の「城野写真印刷所」として創業されました。卒業文集で仕事を伸ばされ、現在は全国約1300校の卒業アルバムを製作されていると伺っています。
城野社長 卒業アルバムを主力とされている印刷会社は全国で15社前後ですが、一般商業印刷と兼業の印刷会社は当社だけだと思います。売上の4分の1がアルバム製作で、残りが一般商業印刷・その他という構成です。
卒業アルバムの製作は2月から3月が繁忙期で、今年も社員130人総出の作業でした。社長の私も、陣中見舞いでは済まず生産現場に入って働きましたよ。
――卒業アルバムは少子化の影響が大きいのではないでしょうか。
城野社長 (顧客である)写真館の個人事業主さまの高齢化・後継者不足も相まって、卒業アルバム市場自体が縮小しています。現在は多様化の時代で、卒業アルバムを買わない選択をする生徒さんも増えてきており、そこをどう食い止めるかというフェーズに入っています。
小ロット化も進んでおり、なかには生徒さんは5,6人で、学校にも納めるため9冊納品ということもあります。大手のアルバム製作会社はそのような極小ロットには対応しなくなりました。当社はB2インクジェット印刷機を持っていますのでこなせる仕事ですし、極小ロット対応が強みでもありますが、利幅は非常に小さい。それでも100年以上、卒業文集・卒業アルバムで商売をさせていただいて今の城野印刷所があるのですから、そこは当社の使命として(極小ロットの仕事も)請けさせていただいております。
九州地方の地盤を固める経営戦略
――もう一つの主力事業である商業印刷も一般的には厳しいと言われています。
城野社長 市場としては、チラシの需要の落ち込みが大きいです。コロナ禍でガタっと落ち込み、円安で用紙などの諸資材も高騰して、チラシの仕事は減っています。
――御社はB2オフセット輪転機も1台お持ちです。やはりチラシの仕事は厳しいのでしょうか。
城野社長 いえ、チラシの仕事が厳しいのは他社も同じです。当社のオフ輪は九州でも一、二を争うほど新しい設備(2019年導入)ですので、九州の印刷会社各社と提携して、オフ輪の仕事を受託する戦略を取っています。「古いオフ輪はこれを機に破棄し、チラシは城野印刷所にお任せください」という流れを作っています。当社も利幅を薄くする代わりに印刷機の稼働率を上げて、利益を確保しています。稼働時間も7月から延長する予定です。
――印刷業界も設備が集約される段階にきていますね。御社は2023年1月に大分県大分市の老舗印刷会社である三恵印刷株式会社をM&Aされました。
城野社長 中央で戦っても大手には勝てませんし、ネット印刷通販大手にもかないません。当社は九州地方の地盤を固める戦略を取っています。その一環として大分の商圏を取り込みたいという思いがありました。三恵印刷は地場でしっかりとした基盤をお持ちで、しかも提案型の営業をされている。
しかし一番は、これからの印刷会社は「総合メディア業」として、お客様の広報を支援しなければならないという思いを髙井道晴社長(現三恵印刷相談役)と共有できたので、これは一緒にやらせていただきたいと思ったのが今回のM&Aの理由です。
――お互い老舗印刷会社である点で、印刷業を強化する狙いがあるのかと私(光山)は思っていました。
城野社長 そうではなく、印刷物の生産は城野印刷所に任せてもらって、デジタルマーケティングの仕組みを使って紙オンリーではない営業の提案を三恵印刷でしていただきたいという考えです。デジタルマーケティングに関して当社は東京のIT企業と提携して展開していますし、今まで生かされていなかった顧客情報を活用して「お客様の広報のお手伝い」をしていただきたいと考えています。実際に三恵印刷は2024年3月に工場を閉じて城野印刷所に機械を移管・集約していますが、売上も落ちていませんし、利益はむしろ上がっています。今後もファブレス化による業務改革を推進していきます。大分に限らず、2024年2月には熊本県南部の八代市を拠点とする合資会社緒方印刷所(緒方大輔社長)ともパートナーシップを組んでいますし、今後も九州を基盤にアライアンスを増やしていきたいと考えています。
――御社は広報やデジタルマーケティングの仕組みもお持ちなのですね。
城野社長 ようやく動き出した感があります。会社が変化してきたのはここ2年ぐらいですね。
まずはお客様の名刺を機械で読み込ませ、一斉メール配信するシステムを導入することから始まって、MA(マーケティング・オートメーション=マーケティングの自動化システム)とCRM(顧客管理システム)を連携させた営業を行うことができるようになりました。
また、大手化粧品会社の広報から江河真喜子広報・ブランディング推進課課長が加わり、県内はもちろん、全国ビジネス誌(2024年4月発行)やWEBメディアにも当社が紹介されるなどの露出も増えました。
当社は熊本県ではしっかりとしたブランド力を持っていますが、九州全域のブランド力も高めて提携先を広げていきたいと思っています。地方では広報の機能がある企業は少なく、今後の大きな差別化にもつながると思います。印刷業界に捉われているのではなく、むしろ異業種からの発想が、新しいイノベーションを起こせるのではないでしょうか。
――最後に今後の展望を教えてください。
城野社長 九州の印刷会社様には古い設備を新台に入れ替えるのではなく「印刷物は城野印刷所に任せればいい」と言っていただけるような生産体制を構築していきたい。大手印刷ネット通販に仕事を委託される印刷会社様もいらっしゃいますが、信頼と質では当社が大きく勝っていると思います。なにより印刷ネット通販は受注製造という意味では従来の印刷業と変わりませんが、当社は(作って納めるだけでなく)提案の仕組み、ソリューションの仕組みを提供できます。その点が大きな違いだと思います。
当社としては、最終的には九州の企業の商品開発や新事業立ち上げに際し、相談すれば必ず答えが返ってくるような「九州のシンクタンク」をめざしたい。特にリソースの少ない中小企業のお手伝いをしたい。現在展開している就活サイト「就活応援くまもと」も、採用ブランディングがしたくてもできない熊本の中小企業のお助けをするという意味では、その一環だと思います。
「お客様のお悩みを解決する」あらゆる手段や方法で、皆様のビジネスパートナーを目指していきます。