【2024年印刷業界10大ニュース①】ラクスル、印刷ネット通販業界首位に

2024年は後に「ラクスルがプリントパックを抜き去った年」と記憶されるかもしれない。ラクスルのラクスル部門の売上高は471900万円(7月期)となり、プリントパックの422億円(4月期)を大きく上回った。

ラクスルは印刷ネット通販では最後発の企業である。全国1600社の中小印刷工場の遊休設備を活用する「シェアリング・エコノミー」を提唱して時代の寵児になったが、実際は下請け数社に価格を競わせる印刷ブローカーといってよい。

ラクスルに特筆すべきイノベーションは見当たらない。自前でほとんどもたないファブレス経営を売りにしているが、ファブレスの競り下げ業者は当時から何社とあった。ラクスルが「シェアリング・エコノミー」と呼ぶ、溢れた仕事を融通しあういわゆる作業交流も印刷業界では昔からあった。エリアを絞ってチラシを撒けるサービスも、印刷から発送まで受託するサービスも、なにもラクスルが発明したわけではない。

加えて、「安さは愛だ」と情緒で訴えるCMを流しているが、ラクスルは安くも何ともない。外注先のイメージ・マジックやプリントネットの方が安いのは、ブローカーとしてマージンで稼いでいる以上当然である。

ではなぜ、最後発のラクスルが成功したのか。一番の理由は調達した資金をマーケティングに「全振り」したことである。ライバルのプリントパックが3年間で約170億円を設備に投資したのを横目に、ラクスルはじゅうたん爆撃的にCMを消費者に投下した。その結果、ラクスルは印刷会社としては最も有名な企業になった。ブランディングを昔から苦手としている印刷業界の逆手にとって、強みとしたのである。

2つめは、小規模企業や商店、いわゆるスモールBに焦点を置いたことである。プロユースのソフトのいらない豊富なテンプレート、校正の自動チェック、仕上がりイメージのわかりやすさなど、まさに素人向けで、プロの同業者をメインターゲットにしたプリントパックとは根本的にターゲットが異なる。

3つめは、印刷会社でありながら、印刷会社とは名乗らず、IT企業と名乗った点だろう。古い印刷業界をインターネットで改革する新鋭という構図が、ベンチャーキャピタルからの資金調達を容易にし、新入社員のリクルートにも役立ったのだろう。

「仕組みを変えれば社会はよくなる」をうたっているラクスルは、次は広告業界へ、次は物流業界へと同じスキームを横展開しているが、そちらは必ずしもうまくいっていない。強力なプラットフォーマーであるが、プラットフォーム以外主な経営資源を持たないラクスルが今後どうなっていくのか見守っていきたい。

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