2006年に「ダイレクトメールのガリバー」を掲げて以来、レスポンスの高いダイレクトメール(DM)を次々に開発し、企画・デザイン・印刷・加工・投函までを手掛けるDM専門の印刷会社として成長を続ける株式会社ガリバー(横浜市神奈川区)。今回は中島真一社長にインタビューし、本社および工場を見学して、同社の成長の要因を探った。

ガリ版から総合印刷へ、そしてDM専門会社へ

中島真一社長

東京湾を臨む洗練されたビルの17階。ベイエリアを一望できるカフェテリア、ゆったりとした打ち合わせスペースを備える広いオフィスで、数十人もの若い企画営業やデザイナーが熱心にアイデアを練ったり、顧客と打ち合わせしたりしている。ここが株式会社ガリバーの本社である。

DMのクリエイティブ集団として知られるガリバーの社名の由来が「ガリ版」であることを知る人はいまや少ない。1950年、中島一郎氏が中島謄写堂として創業、当時は労働組合のビラなどを印刷していた。その後、官公庁、大手メーカーのカタログやチラシなどを手掛ける総合印刷会社として急成長していった。テレホンカードのUV印刷も手掛け、それが後の圧着DMのノウハウにもつながっていく。

オフ輪も2台擁する総合印刷会社として成長していたガリバーも、他の印刷会社と同様に、岐路を迎える。2005年当時、営業本部長だった中島真一氏(現社長)に、先代から言われた言葉はこうだった。

「ダイレクトメールとインターネットをビジネスの柱にせよ」。

ダイレクトメールの仕事は当時売上の10%ほどだったが、そこからガリバーは、DM専門の印刷会社として大変貌していく。カタログ、チラシからCD-ROMまで手掛ける総合印刷会社からDM専門会社へ。2006年には自社ホームページも「総合印刷のガリバー」から「ダイレクトメールのガリバー」に変えた。もう一つの課題であったインターネットビジネスには参入せずに、「インターネットでダイレクトメールを売ろう」と発想を転換、自社のホームページにSEOを施し、顧客の声を聞きながら改善していったところ、全国からDMの問い合わせが舞い込むようになった。

DMに特化したことに手ごたえを感じる出来事もあった。大手企業から依頼を受け、「チラシ」「フリーペーパー」「圧着DM」をそれぞれテスト配布したところ、圧着DMが圧倒的なレスポンスを獲得したのである。「そこではじめて、お客様のほしいものは、印刷物ではないのだ。(お客様からの)問い合わせ・効果が欲しいのだ、と実感した」(中島社長)。ガリバーはそこから、費用対効果の高いDMの企画・デザイン・印刷・加工・宛名印字・区分け・投函までを行うDM専門会社へと体制を整えていく。

アイデアはお客様との打ち合わせの中から

特筆すべきはDMのアイデア商品である。ガリバーが開発したギミックは「オリメール」「パタパタメール」「ひろがるメール」「ポップアップメール」「サンプルinメール」「にょきっとメール」「カタメール」など実に19種類。そして様々な企画DMが、全国の企業で採用されていく。例えば2024年にジャグラ作品展で受賞した株式会社日本経済新聞社の「レコード盤を再現したダイレクトメール」は、その名の通りUVニス加工でレコード盤の溝を忠実に再現したDMだ。2025DM大賞で金賞を受賞した自社のDM50か所可変のバリアブルDM」は、郵便料金が大幅値上がりすることを「自分ごと化」するために1社1社異なるオファーと形状を用意、裏表紙いっぱいの切手のデザインで郵便料金値上げにインパクトを表現した。そして2025年のDM大賞グランプリを受賞したワイン販売会社の「購入率11.7%の優良顧客呼び戻しDM」は、厚手のB5サイズのペラにワントゥワンのQRコードを印刷し、直線距離で抽選へ誘導するDMで、購入率11.7%を達成した。

レコード盤を模したDM

これらのアイデアには奇をてらったり、個人情報を詮索したりするものはない。「印刷にしかできない、面白く、わくわくする、もらって開けたくなるDM」(中島社長)の数々である。

アイデアはどこから生まれるのかという質問には「お客様との打ち合わせの中から」と即答された。デザイン部門も、印刷・加工部門ももちろん大事である。しかし企画営業部門がお客様と真剣にヒアリングし、悩みながら生まれたアイデアが実ることが多い。新卒採用も企画に携えることなどが好きな学生たちを採用してきた。

その点で、取材を通じて社員のアイデアを大事にする社風が伝わってきた。例えば社長も含め、年齢や役職を問わず「さん」付けして呼び合う。唱和などは一切行わない。「当社の組織図はお客様を頂点とした逆ピラミッドです。お客様と接点のある企画営業が上位にいて、情報が制作や工場などに流れていく。もっとも下位が社長である私ですかね」と中島社長は笑う。

DMに特化した設備の数々

今回の取材では、中島社長に工場を案内していただいた。

かつてオフ輪工場だった同社工場は、2017年にダイレクトメール専門工場に変身を遂げている。オフセット印刷機はカメラ検査装置付きの最新鋭H-UVタンデム型菊全8色機「リスロン GX840RP」と、ニスコーター付き菊半裁H-UV6色機「リスロン LS629」ほか1台である。特にニスに3胴使える「LS629」は疑似エンボスなどのニス加工による付加価値印刷を主力とする同社にとって生命線といえる。

さまざまな後加工機が活躍

そのほか、クーポン券を付けるアタッチメントの機械や、QRコードや宛名を超高速で印刷できるインクジェットヘッド「プロスパーS5」、糊の自動噴射装置、そして投函作業で不可欠である自動区分け結束機など、DM専門会社でしか見られないようなユニークな機械が多い。セキュリティ体制や検査装置を含め、同社工場は一般印刷会社との大きな差別化要素といっていいだろう。

郵便料金値上げは「追い風」

デジタル化は進み、郵便料金の大幅な値上げもある。だが中島社長は「費用対効果を追求してきた当社にとってはむしろビジネスチャンス」と明るい。「電子メールのレスポンスが悪く、紙のダイレクトメールをご要望されるお客様は増えています。これから大量に配って終わりではなく、限られた予算で部数を絞り、費用対効果の高いDMを配布する時代になる。当社にとって一時は逆風と思われた郵便料金値上げも『追い風』と思っています」。

最後に中島社長に今後の印刷業界の展望について聞いた。

「印刷は生き残ると言っていた方々でも、どんな印刷物が残るのかをはっきりと示した人はいなかったんです。私はパーソナライズされた、プッシュ機能を持つ、インターネットにはない人の感情に訴える機能を持つ印刷物のみが残っていくと思います。これからも、面白い、わくわくする、もらって開けたくなるDMを追求していきたいと思います」。

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