【マーチングEXPO2024レポート】ロボットから農業まで、地域共創の輪がつながる

一般社団法人マーチング委員会によるイベント「マーチングEXPO2024」が2024118日、東京の晴海トリトンスクエアX棟42階のリコージャパンセミナールームで開かれ、全国のメンバーなど31人が参加した。地域のなにげない風景のイラストをコンテンツに地域おこしを目指すマーチング委員会だが、ロボットスポーツから結婚式の企画、ITスクールやコワーキングスペースの運営、農業まで、各地からさまざまな地域共創事例が発表された。

地域活性化についてさまざまな議論が交わされた

全国ブランドのキンコーズ・ジャパンが取り組む地域共創

井上雅博理事長の開会あいさつ、第1部の経営コンサルタント並木将央氏によるセミナーの後、第2部ではキンコーズ・ジャパン株式会社、あだちマーチング委員会、さぬきマーチング委員会が地域共創の取り組みを紹介した。

1970年にアメリカの大学生向けコピーショップからスタートしたキンコーズは、現在コニカミノルタグループとして店舗を全国展開しているが、店舗ごとに地域に根ざした取り組みを行っている。例えばキンコーズ川崎駅前店では、コロナ終息により余ったアクリルパーテーションを川崎市が回収、地域の子どもたちに同店のフリースペースでアクリル製ユニホーム型キーホルダーを作ってもらい、Jリーグサッカーチーム川崎フロンターレのホーム轟スタジアムで提供するというワークショップを実施、延べ約5000人の子供たちがワークショップを通じてSDG’sを学んだ。キンコーズ金沢尾山神社前店では石川県の製紙メーカーや商社と連携して県内の再生紙「おきあがみ」を県内で消費する地産地消プロジェクトを実施し、大手有名セレクトショップなどでも提供している。同社の野上朝子広報・サステナビリティ推進部部長は「川崎の事例が名古屋で展開されたりと、横展開もしている。地域活性化の取り組みを企業の成長につなげられるよう、従業員にインセンティブを与えるなど試行錯誤もしている。プレスリリースなどの情報発信を通じて、共創のお声がけをしていただくことも増えた。ぜひみなさまとともに地域共創のすそ野をひろげていければ」と結んだ。

足立区の町工場の技術を生かすロボットスポーツ協会

東京都足立区は人口約70万人、目立った観光資源や名産はないと思われがちだが、たくさんの町工場や学生がいる。これらの人たちを結び付けて、次世代に活気があって夢のある地域にしたいという思いから弘和印刷株式会社(あだちマーチング委員会)の瀬田章弘社長が大学の研究者、企業のエンジニアらとともに立ち上げたのが一般社団法人ロボットスポーツ協会である。ロボットスポーツとはラジコンなどとは違い、プログラムで動くロボットが、ドローンとともに陣取り合戦などをするスポーツであり、日本の強みである町工場のものづくりの技術が生かせる。大会運営をする株式会社ロボットスポーツリーグ、プログラムやモジュールを開発するロボットスポーツゲームズの2社も立ち上げた。北千住で開催したイベントには約1000人の若者が参加し活況だった。JR東海と協力してさがみロボット産業特区として沸く神奈川県の橋本駅近くでロボットスポーツ体験をするワークショップを開いたりしている。

これらの活動を紹介した瀬田氏は、「エンジニアが常駐してロボットを触ったり作ったりするラボを設立するなどしていく。またわれわれが実験台となって、今後はバスケットボールのBリーグのように全国の地域ごとのチームが技術を競い合い、ものづくりの好きな若者が地域の企業に入社しロボット産業を盛り上げるようなムーブメントを起こしたい。地域のリソースは観光だけではない。いろんな課題に対して、いろんな人をつなげ、後方支援していきたい」と述べた。

助成金を活用し絶景での結婚式をプロデュースしたミヤプロ

さぬきマーチング委員会(株式会社ミヤプロ)は約10年前にマーチング委員会の活動を始めたが、例えば高松市の栗林公園の物産店では数万点の商品のなかで、さぬき百景の絵はがきが何年も販売数2~3位になっており、事業として成り立っている。近年は観光の助成金を使った企画に力を入れており、2024年だけでも4つの企画が通った。そのうち「アートと絶景が織りなす非日常空間での至高の瞬間、瀬戸内海を一望する世界のNAGARE STUDIO流政之美術館での革新的ウェディング&記念日セレモニープロデュース」事業では、瀬戸内海の沖合に浮かぶ小島にある津嶋神社の前にクルーザーを乗り付けて神前結婚式をしたり、水族館を貸し切って食事をしたりする企画を実施した。同社が主体事業になりタクシー会社、観光バス会社、旅行代理店など17社がかかわった。横串しに活動をするには地域のつながりを長年培っていかないといけない。社員も印刷だけではなく資格取得など観光のことも勉強しなくてはいけない。――以上のことを説明した宮嵜佳昭社長は、「助成金の認可は近年は厳しく、報告書だけでも150ページ書いた。観光資源は東京・大阪・京都・奈良以外にも全国にたくさんある。助成金取得のご相談があればお声がけいただきたい」と話した。

新規ビジネス立ち上げの経緯についての議論沸く

3部では農業ビジネスに取り組む株式会社アドヴォネクスト(甲斐の国マーチング委員会)の井上雅博氏、ITスクールやコワーキングスペースを運営する株式会社さくら印刷(もばらマーチング委員会)の鎌田貴雅氏、ご当地ガチャやチームTシャツなどを提供する株式会社いわき印刷企画センター(いわきマーチング委員会)の鈴木一成氏、折込フリーペーパーを発行している株式会社TONEGAWA(湯島本郷マーチング委員会)の利根川英二氏によるパネルディスカッションが行われた。

株式会社アドヴォネクストは1908年の老舗印刷会社だが、DTP、イメージセッター、インターネット、ホームページなどを他に先駆けて導入する先進的な企業でもある。2011年に約1ヘクタールの田で稲作を開始、事業の柱の一つにもなっている。近年SDG‘sカフェを運営することで、仕事も増えるだけでなく、仕事を始めたい地域の人を支援するビジネスにもつながっているという。

マーチング委員会の創設者である株式会社TONEGAWAは文京区の地域おこしの一つとして地元企業・商店を紹介するフリーペーパー「湯島本郷マーチング通信」を折り込んでもらったところ、新聞販売店が「地元の読者が楽しみに待っているので、販売のつなぎとめにつながる」と複数の新聞に無料で折り込んでもらっているという。100号を記念したセミナーも開催を予定している。

千葉県茂原市は人口9万人、いわゆる「消滅都市リスト」にも入っているが、「地元が大好き」という株式会社さくら印刷の鎌田氏は、IT人材を地元で育てたいという目的でデジタルハリウッドと提携しスクールを運営したり、コワーキングスペースを開設したりしている。

いわき市の株式会社いわき印刷企画センターではご当地ガチャを提供したり、大学などに向けクラスTシャツを50色から選んでもらう提案などを行っている。

以上の自社紹介を行ったのち、並木氏の絶妙のファシリテートで各社の課題などについて話し合われた。特に各社の新規事業の立ち上げの経緯については参加者の大きな関心を引いていた。

「印刷」の枠を超えて

4時間にわたる議論のなかで感じたのは、マーチング委員会は印刷会社の枠組みを大きく超えているということである。印刷業とのシナジーについてとか、印刷業に落とし込む仕組みについてとか、そういった議論はほとんどなかった。議論の中心にあるのは印刷会社として培った、地域とのつながりである。地域のハブとして人と人をつなげ、企業や自治体をつなげ、地域おこしをするという共通認識が、メンバー各社の暗黙知としてある。だから地域の課題が各社各様でも議論が発展し、新規ビジネスのヒントとなると感じた。

全国からメンバーが集まった

 

 

 

 

 

 

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