医薬品メーカー国内トップの武田薬品工業が2024年1月25日、同社製品の二次包装(組箱、取扱説明書、ラベル等を含む)の印刷を特色インキからCMYKインキへ切り替えることを発表した。インキや印刷機洗浄溶剤の使用量が削減でき、環境負荷低減が図られるとし、2026年までに全製品をCMYKインキに切り替えるとしている。
確かに理論的には、ジョブごとに特色インキを調色し、印刷ユニットを洗浄し、余ったインキを廃棄するよりも、すべてのジョブをCMYKの4ユニットで通した方が生産効率がいいし、環境負荷軽減にもなるかもしれない。同社のセミナーを聞いたある人は「なぜ今まで特色インキを使っていたのだろう」と感心していた。
だが、そもそも特色はなぜ使われているのか。それはCMYKよりも特色の方がはるかに色域が広く、ブランドにおいてまさに独自色を出せるからである。多くのブランドオーナーは特色を使ってコーポレートカラーなどを表現している。その多彩な特色文化がなくなり、これからブランドオーナーはCMYKの色域の中でブランドを表現しなくてはならなくなるということだろうか。今までのコーポレートカラーがCMYKの色域に押し込まれると、例えば色がくすんだりしてブランド価値が下がるのではないだろうか。
さらにはネット通販業界の苦慮がある。ただでさえRGBのディスプレイよりもCMYKの方が色域が狭く、色味が違うと苦情や返品も起きているのに、それでも商品をCMYKで表現するのか――さまざまな疑問が出てくる。
そういった疑問を持ちながら、2024年10月に開かれた同社のセミナーを聴講したが、同社自ら「色がくすんで見える」「微細なラインや文字が表現できなくなる」「見当合わせが難しくなる」などのデメリットを認めていることにまず驚いた。だがそれ以上に、それらのデメリットがありながら、消費者に事前に比較検証してもらうことも、環境・価格コストの削減の実証実験をすることすらしていないということに驚いた。同社のサプライヤーにヒアリングしてシミュレーションしただけで「特色は環境に悪い」と判断するのは、それこそ風評被害にもつながるのではないか。
特色インキが環境に悪いなら7色プロセスのデジタル印刷機やオフセット印刷機で仕事をこなすという代替案もある。だが同社はそれらの代替案も考慮していないようだ。同社に言いたいのは「先ず隗より始めよ」。つまり自社が実証してから、世間に広めよということである。CMYKに切り替えた商品がまだ市場に出回っていないうちから、業界に特色廃止を呼びかけるのは誤っていると感じた。