プリントネット株式会社(本社=鹿児島市)は鹿児島県姶良市の中小印刷会社だったが、2004年に印刷ネット通販を開設して急成長し、現在は東証スタンダード上場、売上93億円の印刷ネット通販専業会社となっている。そのなかでも小田原洋一社長は一貫して効率化を旨とし、高い利益率と低価格を両立している。小田原社長にインタビューした(聞き手=光山忠良)。
目先の売上よりも利益率を重視
――小田原社長は前回(2023年9月)お会いしていた時に、「経営者としてみるのは『生産性』と『損紙率』だけ」と仰っていました。今年度も売上高営業利益率4.8%と高い利益率を確保されていますが、今後もやはり効率重視ですか。
小田原社長 現在オフセット印刷機は東京西工場に7台(うちオフ輪3台)、九州工場に2台が稼働していますが、当社の工場の生産キャパシティはマックスで年間100億円弱です。今期の売上は約93億円ですので、生産調整をするのか、工場を増設するのかの選択になります。
実は九州工場に隣接した約1万坪の工場用地を取得していて、第1期工事を今期中には着手できるよう準備を進めています。ただ、現在は人件費も印刷機も建築費も当初の予定より億単位で高騰しています。工場の増設を急ぐよりも、商品価格を見直し(大口顧客との取引内容を含め)、無理に売上を追い求めず、確実に利益を得られる体制作りを優先させた方がいいのではないかとも考えています。
――やはり利益率の向上を目指されているわけですね。
小田原社長 刷りっぱなしでは利益率は向上しませんから、中綴じ・無線綴じなどの後加工も充実させています。カレンダー商戦の季節ですが、B2カレンダーの製本なども得意としています。工場を見学されて驚かれる方も多いですね。
ファブレス化した印刷会社を取り込む
――前回のインタビューでは「2030年までには、印刷業界は大手2社(大日本印刷、TOPPAN)とその下請けのグループと、印刷ネット通販に発注するファブレス会社(工場を持たない会社)のグループの2つのグループに分かれる」との予測を示されました(詳細は『印刷業界の未来図』参照)。中小印刷会社のファブレス化は進展しているとみてよいでしょうか。
小田原社長 ファブレス化はどんどん進んでいますね。特に関東ではそれを感じます。印刷機をお持ちであっても、実働30年のオフセット印刷機で仕事をこなされている印刷会社様もあります。若いオペレーターではそれではメンテナンスもできない。
――九州の8色機をお持ちの印刷会社様もネット通販を展開されていましたが、今年(2024年)倒産しました。設備投資の負担が大きかったようです。
小田原社長 今は8時間機械を回しても利益が出ない時代です。当社では24時間360日稼働させています。機械は10年償却ですが、オーバーホールしても6年持つか持たないかで、新台に入れ替えています。
――それでも最新鋭の機械を24時間360日フル回転させた方が、古い機械を回すよりも生産効率ははるかに高いと思います。
小田原社長 ロングランならば古い機械でもいいのでしょうけれども、(新台は)ジョブ替えが圧倒的に多いし、早いですからね。九州工場の平均ロットは2000~3000枚ですが、それでもジョブ替えを1日1機につき平均50回行っています。
当社としてはファブレス経営をされている印刷会社さまとどんどん協業していきたいと考えています。印刷ネット通販業界はクローズドな会社が多いと思いますが、当社ではお問合せいただきましたら東京西工場、九州工場を問わず工場を見学していただいております。実際に工場を見学されて、「これだったらファブレスに切り替えた方がいいな」と決断された印刷会社様もいらっしゃいます。
――近年は一般顧客のスモールB(小規模企業や商店)をターゲットにしている印刷ネット通販が台頭していますが。
小田原社長 当社としてはある程度の仕事のボリュームを持つ中小印刷会社様にも注力していきたいと考えています。そうすればお客様にもメリットをご提供しやすいし、当社としてもプラスです。
プロの印刷会社向けサイト「プリントプロ」
――京都の2社など他社との差別化についてはいかがでしょうか。
小田原社長 他社に「浮気」されたユーザー様も、また弊社のサイトに戻られることが非常に多いです。一番の理由はカスタマーサポートだと思います。納めっぱなしではなく、なにか不安があったときに電話がいつでもつながる。そして万が一なにか問題があったときに素早く対応する。当社のカスタマーサポートはとても優秀であると言い切れます。
また印刷ネット通販に抵抗がある印刷会社様もまだまだ多いと思いますが、ファーストコンタクトでのカスタマーサポートがとてもいいとのご評価をいただいています。
――価格、納期、品質、サービスのうち、サービスが一番の強みということですね。
小田原社長 いえ、価格を追求されたいお客様には「プリントプロ」というサイトをご提供しています。
――「最安級印刷」を謳われていますが、なぜこの安さが実現できるのでしょうか。
小田原社長 一番の違いは電話対応を行っていないことです。カスタマーセンターのコストを削減して、お客様がデータを入稿されたら、即、弊社の工場に流れるというイメージです。データチェックも自動化して、できるだけお客様に利益を還元していただく仕組みです。
――プロフェッショナルな印刷会社には「プリントプロ」を、まだまだ抵抗のある印刷会社には「プリントネット」をと、それぞれ特徴がありますね。
透明性の高い印刷ネット通販をめざす
――印刷ネット通販市場の展望についてご意見をいただけますか。海外に比べて日本の印刷ネット通販の割合はまだまだ小さい…
小田原社長 海外は印刷ネット通販というよりも、「ウェブ・トゥ・プリント」(Web to Print)ですね。名刺にしても冊子にしてもすべて規格化されていて、顧客も特定されていて、(シームレスに)仕事が流れる仕組みです。誰でも登録できて、さまざまな細かい仕事をランダムにこなさなければいけない日本のネット通販とは(効率性が)異なる。将来日本もウェブ・トゥ・プリントになれば、お客様にとっても当社にとっても利益が出やすくなると思います。
――個々の一般企業ではなく、ファブレスの中小印刷会社を介してデータを一律・規格化して、印刷ネット通販会社に発注する仕組みができると、印刷業界も効率的で高収益が望めるかもしれませんね。
小田原社長 そうですね。データを整形して、印刷ネット通販会社に発注する。
私が20数年前、自社にオフセット印刷機1台しかなかったころはネット通販も普及しておらず、外注先を探すのも大変でした。そういう意味では今はいい時代ですね。20年前に印刷ネット通販会社があれば、私もファブレスにして、印刷ネット通販会社に外注していたと思います。
――昔は単価も数円から数十円までブラックボックスだったのが、今は公正な印刷会社に発注できます。
小田原社長 官公需にしても、地域の中小印刷会社様が仕事を獲得して、印刷の仕事は印刷ネット通販会社に外注するケースも多くなっています。印刷機械を持っているから仕事が取れる時代ではないかもしれませんね。
――官公需にしても地域の印刷会社は企画が一番重要になってきますよね。では最後に九州印刷新聞の読者にメッセージを。
小田原社長 先日も機材商社の方が工場を視察され、来年(2025年)2月にも日本グラフィックサービス工業会様が数十人で見学をされる予定です。まずは工場見学をしていただき、しっかり中身を見ていただいて、機会があればご発注していただければと考えています。