
トキワ印刷株式会社(大阪府東大阪市)は創業1939年、従業員33人の印刷会社。パッケージ印刷が9割を超え、特に店頭に並ぶアパレルやカミソリといった商品パッケージの厚紙台紙の仕事を数多くこなしている。小ロット・多品種の仕事の中で培ったギャンギングの知見を活かし、小ロットの厚紙専用印刷通販「わがままプリント」を開設するなど、販路の開拓にも注力している。渡辺貞城社長にコロナショック以降の経営戦略などを聞いた。
コロナ禍を機にリスク分散型経営へ
――御社は1939年に創業されたと伺っています。
渡辺社長 私の祖父である渡辺国武が、高知から丁稚奉公で大阪にやってきて、その後印刷業を始めたと聞いています。すぐ太平洋戦争のため兵隊にとられ、終戦後大阪に帰ってきたものの物価統制のため個人創業はできないということだったので、同業の4人で印刷会社「トーワ印刷」を創業しました。その後4人はそれぞれ独立して、「トキワ印刷」「三星印刷」「綾田印刷」「大阪シーリング印刷」として今も操業しています。当社は「トーワ印刷」にゲタをはかせてみようということで「トキワ印刷」と名付けられたと聞いています。
祖父は刀が好きで、その関係で(カミソリ製造で知られる)貝印株式会社様、フェザー安全剃刀株式会社様、それからアパレルのグンゼ株式会社様とお取引をさせていただくようになり、今もその3社様からの仕事が売上の7割を占めています。
――今や大手企業となられた数社を顧客基盤とされているのですね。
渡辺社長 その点が当社の強みであり、リスク要因でもありました。当社はオフセット印刷や電算写植などをいち早く導入し、右肩上がりで成長していきました。私は2008年に入社し、2014年に社長に就任したのですが、リーマンショックも大きな打撃にはなりませんでした。カミソリやストッキングは一般消費財ですから。
ところが2020年からのコロナショックはまったく想定外でした。ストッキングはOLやキャビンアテンダント、ホステスさんが主なユーザーですが、コロナによって在宅勤務になる、飛行機は飛ばなくなる、クラブ街は活気がなくなるということで、ストッキングの仕事は9割減になりました。大手数社への依存というリスクが顕在化してしまったのです。2021年には大阪市内にあった本社工場などを今の東大阪市に移転統合しました。
ギャンギングのメリットを最大限生かした「わがままプリント」
――主要顧客の売上依存から脱却するためにとられた戦略は。
渡辺社長 ネットで広く顧客を募ろうということで、厚紙印刷通販「わがままプリント」を本格スタートしました。もともと当社は、例えばスーパーなどの商品棚に吊り下げられている調理用品のパッケージの台紙を数多く請けているのですが、毎月約6000点のアイテム中からの台紙の受注をいただくため、ギャンギング(複数の仕事を同じ版で面付して印刷する=付け合わせ印刷)のノウハウを高めていました。そこで付け合わせの余白を活用しようということで、極小ロットの台紙も受注する「わがままプリント」を考えたのです。

――「わがままプリント」というネーミングもいいですね。
渡辺社長 実はお客様のわがままではなく、当社のわがままを聞いていただくというコンセプトです。用紙は3種類、表4色×裏1色、ニス加工あり/なしの仕事のみ請けさせていただく、そのかわり1000枚8000円からという低価格でご提供させていただくというサービスです。ギャンギングの相乗りに付き合ってくれたらお安くしますよという、当社のわがままです。
――厚紙専用の印刷通販というのがユニークですね。
渡辺社長 おそらく当社だけのサービスだと思います。パッケージの通販は他にもありますが、(厚紙台紙だけならば)貼りや複雑な形状の知識、ITリテラシーもいらないです。工具メーカー、釣り具メーカー、それからPOP関係の極小ロット・多品種に利用していただいています。卓上カレンダーの底(の台紙)、神社仏閣の交通安全のお守り(の台紙)など、思ってもみなかったご注文もいただいています。お客様から教えていただくことも多いです。
売上はまだまだですが、年率30~40%で伸びています。「わがままプリント」をフックに、規格外の大きな仕事をいただくケースもあります。
小ロット多品種の厚紙印刷ならばトキワ印刷
さて、御社は富士フイルムのB2インクジェット枚葉機「JetPress750 S」を導入、2026年1月から稼働させています。導入のきっかけは。
渡辺社長 当社には小森コーポレーションの菊全5色機のほかに、他社製の菊半5色機がありましたが、メンテナンスのサポート体制がいろいろ難しい面があって、オフセット印刷機、またはデジタル印刷機へのリプレイス(代替)を検討しました。オフセット印刷機という選択もあったのですが、当社はほとんどの仕事が厚紙の小ロットということもあって、カウンターを調べてみたら旧台の菊半5色機は1時間平均1200枚しか刷っていない。これなら厚紙でも毎時3600枚のスペックの「JetPress750 S」でも行ける、むしろ段取り替えがいらないデジタル印刷機の方が当社にあっていると思いました。

――御社の(厚紙小ロットの)商材から考えて、デジタル印刷機があっていたのですね。
渡辺社長 パッケージは色合わせが大変ですが、デジタル印刷ならば一発で合いますからね。厚紙0.6㎜対応のスペックですが、わずかな反りでもセンサーが感知してしまうなど問題がないわけではありません。ただそれも(用紙のクセ付けなど)経験を重ねればこなせるものと考えています。
――オフセット印刷機とハイブリッドの運用を行っていくのですか。
渡辺社長 はい。通し1000枚以下はデジタル印刷機でこなす方針です。「わがままプリント」はロット1000までなので、ネット通販はすべてデジタル印刷機でカバーする予定です。
それでも旧台の菊半オフセット印刷機よりも生産性が上がる見込みなので、パッケージの色校正用途にも使っていただこうと営業しています。デジタル印刷でもジャパンカラーの色域で出力できるようプロファイルを組んでいます。特色以外のカラーものでしたらお気軽にご相談いただきたいと思います。
また、当社では4色+OPニスという仕事が多いため、JetPress750Sにインラインで水性ニスコーターをつなぎ、ニス引きにも対応しています。オフセット印刷のOPニスと同等の仕上がりになるよう調整しており、オフセット印刷機とデジタル印刷機のハイブリッド運用を行っていきます。
――デジタル印刷の品質面は。オフセット印刷の方がベタの迫力が違うとか質感が違うとかおっしゃられる方もいますが。
渡辺社長 デジタル印刷の方が品質は高いと考えています。スミベタも問題なく表現できます。検知装置が付いているのでスジなどの問題もありませんし、ゴーストなどオフセット印刷特有の問題もありません。当社としても付け合わせのために絵柄面積率などの近い仕事を集めて寄せる必要などもありません。価格と品質を両立できます。
――最後にパッケージ業界の未来と今後の展望を。
渡辺社長 商業印刷に比べてパッケージ業界はまだ明るいですが、(サステナブルの側面から)用紙の斤量は減っていますし、無駄な加飾も廃止する方向になっており、パッケージ用紙の出荷量も実は減っています。決してバラ色の未来ではありません。当社としては、やはりものづくりの会社として、しかるべき設備と技術にきちんと投資していきたい。「JetPress 750S」という武器を手に入れたのですから、その武器を最大限に生かしていきたいと思います。













