東京の印刷会社がコンビニエンスストアやドラッグストアの販促物の物流代行で急成長をしているのはご存じの方も多いと思う。福岡の中小印刷経営者の中にも、地域のラストワンマイル(消費者への最終配達)の物流ビジネスをしたいと真剣に話されている方がいた。
2024年問題で印刷物の物流コストはもちろん、諸資材も高騰し、大きなピンチを迎えている印刷業界であるが、ピンチはチャンス。物流業界の課題を見つけ、解決することに大きなビジネスチャンスがある。
というわけで今回は、2024年3月10日発売の野口智雄著『日本の物流問題―流通の危機と進化を読みとく』(筑摩書房)を読んでみた。
物流量と積載率の低迷の理由は?
コンパクトでわかりやすいと思うが、抜け落ちていると思われる論点があるので、まずその点を指摘したいと思う。
宅配便が2022年に2000年比で約2倍の約50億個に増えており、さぞ物流市場は右肩上がりなのだろうなと思いきや、2022年の国内貨物輸送量は2000年比で27・5%も減少している。著者も冒頭にその点を指摘しているが、いくら読み進めても、その原因分析がない。物流量の低迷は日本経済の停滞や製造業の空洞化などが要因であると一般に指摘されているが、国内経済、とりわけ製造業が復活しない限り市場拡大は見込まれないのである。その点を大前提として押さえなければならない。
その上で、2022年の積載率が36.5%に低下しており、「6割は空気を運んでいる」と言われていると問題提起し、筆者はその原因を宅配便などの小口輸送や再配達問題による非効率に求めている。しかしそのための課題解決についての取り組みの紹介が、(末尾にDX化や共同配送が触れられている以外)ほとんどない。重要なのは「物流二法」という規制緩和により街に溢れている小規模運送業者をいかにマッチングさせるか、配達後の荷台が空になったトラック(いわゆる「帰り便」)をいかに有効利用するかといったことが近年の論点になっているのに、その点の指摘がまったくない。返品業務のリバースロジスティックスの効率化や、広告に使えるラッピングトラックの提案などは、そういった論点に比べれば枝葉末節ではないか。
サプライチェーンマネジメントの論点は?
AIやロボットについての言及には比較的紙面が割かれているが、やはりここでも重要なのは、ドローンの安全性やロボットの弱点などではなく、サプライチェーンのマネジメントという本論についてだと思う。印刷業界がMIS(マネジメント・インフォメーション・システム)が肝であるように、物流業界はWMS(ウェアハウス・マネジメント・システム)が肝である。物流をいかに予測し、管理し、人や工場を効率化するか。その取り組みの紹介がまたしてもない。
逆に災害時の物流について1章まるごと割いているが、事業継続計画のBCPをBPCと誤記してしまう大チョンボである。
2024年問題の分析(ドライバー不足の要因など)や物流の歴史などは比較的わかりやすく説明しているだけに残念な本である。少し古い本になるが小野塚征志『ロジスティクス4.0: 物流の創造的革新』(日経文庫)などで補足されたい。