福岡県中間市に位置する有限会社日高印刷所は1913年創業、従業員10人の印刷会社。4代目にあたる日高慶太郎社長は顧客のブランディング支援やYouTubeの動画制作・配信サービスなど印刷物に落とし込む仕組みづくりに積極的に取り組んでいる。今回は日高社長に「中小印刷会社の戦い方」をテーマに話を伺った。
ブランディングを突破口に
――顧客のブランディングのサポート事業をされています。どのような経緯で始められたのでしょうか。
日高社長 2014年にJAGAT(日本印刷技術協会)からの紹介で、北九州市で一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会のセミナーを受講しました。今まで使わなかった部分の脳もフル回転させる感覚で、2日間のセミナーを終え、同協会のベーシックコースを修了しました。ところがそのままにしていたのです。
コロナ禍になって印刷業も大変厳しくなり、新たに顧問になってもらった税理士に相談したところ、印刷以外に粗利の高い自社の強みは何かないかと聞かれ、ぱっと思い出したのがブランド・マネージャーの資格でした。そこで2022年にトレーナー資格をリモートセミナーで取得し、顧客のブランディングのお手伝いをすることになりました。
いま特に力を入れているのが「インターナルブランディング」です。経営者がいくら確固たるビジョンを持っていても、社員に伝わっていなければ意味がありません。「案内状の仕事を下さい」と言っても経営者には響きませんが、「あなたの思いが社員に伝わっていますか」という言葉は響きます。社員にもヒアリングし、顧客リストの休眠客を洗い出して、会社の思いが詰まった案内状を提案したところ、受注につながりました。まだまだ動いたばかりですが、ブランディングが印刷物を受注する突破口になりました。
――中間市でブランディングを行っている競合他社はないのではないでしょうか。
日高社長 大手印刷会社や代理店ではお金がかかりますし、地元の広告代理店もCMや新聞広告の枠を売ることはしていても、ブランディングまで行っている会社はないと思います。
今後は私がコンサルティングやセミナー講師をしていますが、やはり印刷業もおろそかにはできないので、生産現場の人員の育成も行っているところです。
福岡県の支援でカイゼンの仕組み取り入れる
――御社はオンデマンド印刷機のほかにオフセット4色機をお持ちです。印刷業としての取り組みは。
日高社長 福岡県中小企業生産性向上支援センターの生産性アドバイザーに2020年から1年間10回訪問していただき、カイゼンのアドバイスをいただいたところ、約10%あった(機械の故障などによる)停止時間がゼロに、1日の印刷機の生産性が2.5倍以上になりました。トヨタの生産現場で学んだアドバイザーの方に無料で相談していただけることがわれわれにとっては非常にありがたいです。外部の方からは、われわれには見えないやり方、ノウハウを持っていらっしゃいます。例えば予防保全ですね。コストをかけてでも機械メーカーに定期的にメンテナンスしてもらった方が、故障のたびに連絡するよりもメンテナンス代がドンと下がる。
――将来的にメーカーのメンテナンスが頻繁に来てくれるとは限らなくなりますよね。
日高社長 自社のオペレーターに、故障したら自分で直すようにも教育してもらいました。未経験のオペレーターだったのですが、自社で予防保全やトラブルシューティングができるようになりました。
思い立ったらすぐ実行
日高社長 工程管理も(クラウドシステムのノーコードツール)「キントーン」で一元管理できるようにやり方を変えています。キントーンは拡張性が高いですし、大規模な工程管理システムを導入する必要がありません。
――システムエンジニアを雇用しているのですか。
日高社長 いえ、人材マッチングサイトで紹介してもらった東京の方に副業でお願いしています。2週間に1度程度、Zoomで打ち合わせして、次回までにキントーンをこう改善してと頼んだら、次回までにやっていただけるというイメージです。
――今の時代、人件費も高く、地方の中小企業は人材難ですが、リモートでいくらでも人的リソースを活用できるのですね。
日高社長 人材マッチングサイトの情報も地元の信用金庫のセミナーで聞いて、即実行しました。これからは情報を積極的に取りに行くこと、そして何より、思い立ったら即実行することだと思います。失敗したらやり直せばいい。
――スモールにスタートアップできる時代ですものね。YouTubeの制作サービスも開始されましたが、どういった経緯ですか。
日高社長 インボイス制度で印刷物の特需があるのではないかとセミナーを受けたのがきっかけです。自分なりに勉強して、ある知り合いの経営者にインボイス制度について説明してあげたら、「今までチンプンカンプンだったのが、今の話で全部わかった」と言っていただきました。そして話をしているうちに、「同じ説明を何度もするのは面倒だから、インボイスの解説動画を作ってYouTubeにアップしよう」ということになったのです。
私のYouTubeチャンネルはそれほど視聴回数は伸びていませんが、知り合いの飲食店の店主から少年ラグビーチームの子供たちまで、「YouTube観たよ」と声をかけてもらえるようになりました。そして何より、動画制作・配信の知見を得られたことが大きいです。例えば30分で動画を撮影してアップするテクニックとか、Instagramに横展開するノウハウとか。自分でやってみないと知見はたまりません。
印刷物に落とし込む仕組みづくりを
――最後に御社の今後の方針を教えてください。
日高社長 やはり当社は印刷機を持っていますので、印刷機を回すための入口づくり、仕組みづくりが前提です。例えばホームページ制作はどうしても外注にならざるを得ないので、利幅も小さいですし、印刷物に落とし込めない。それならばホームページは他社を紹介して、自社は印刷に落とし込む仕組みづくりに専念していきたいです。
すでにセミナーやコンサルティングを数回行っていますが、それだけでお金が取れるほど簡単ではないと思います。セミナーやコンサルティングを入口に、印刷物を受注することがベストだと思います。美容院のブランディングから始めて、クーポンや名刺などの受注にもつなげていますし、そういった事例を増やしたいと考えています。