
福岡県久留米市に本社を置く株式会社丸信は1968年設立、従業員約600人のシール印刷・紙器印刷・包装資材販売会社。売上高は直近39期連続増収の127億6000万円(2025年2月期)で、40期連続増収も確実にしている。「食品業界のソリューション・プロバイダーをめざす」と話す平木洋二社長に、同社の成長戦略を聞いた。
過去最大の投資で基幹工場を竣工

――御社は本社の隣接地に延床面積5304.43㎡もの基幹工場を竣工、2024年5月から稼働されています。決断の理由をお聞かせください。
平木社長 結論からいうと、既存の本社工場に新しい設備を置く場所がなく、これ以上の成長を望むとなると新しい建屋を作るしかないという判断からです。(全国展開する丸信としては)久留米市以外の遠隔地に工場を建てるという決断もあったかもしれませんが、そうなると人材採用の面で不安があります。地元久留米ならばオペレーターを集められるというのも地元を選んだ理由の一つです。
実は隣接地は農地で、なんとかここに建屋を立てられないかと久留米市と何年も協議し、農業委員会などのご理解が得られて、昨年ようやく竣工しました。建設費の高騰で、過去最大の15億円(建屋のみで)の設備投資となりました。納期対応を含め、隣接地に基幹工場を建てることができてよかったと思っています。
――内製化率を高めるという理由もあったのでしょうか。
平木社長 内製化率というよりも、これからも売上が伸びていけば自社で製造できない状況が見込まれました。当社は急成長してきた会社ではありませんが、直近39期連続増収しており、今後も成長を見込んで計画を立てています。
――御社が成長戦略を採られる理由は何でしょうか。印刷業界にいると、リスクは負えないよという経営者も多く見受けられます。
平木社長 私自身も成長を糧に経営にあたってきました。あえていうと、当社は印刷会社ではありますが、包装資材の卸の売上が50%以上あるので、包装資材業界のマインドも強いです。包装資材業界のトップ企業はみな増収を続けていますし、激しいシェア争いを日々行っています。包装資材業界に比べて、印刷業界はお互いの顧客を奪い合わない「お行儀がいい」商習慣がおありかもしれませんね。
数々のソリューションで唯一無二のポジションを確立
――激しいシェア争いのなかで、御社の取られるポジショニングは。
平木社長 (シール、紙器、包装諸資材など)商材によってポジションは異なりますし、一概には言えませんが、かつて全日本印刷工業組合連合会でも提唱していた「ソリューション・プロバイダー」を地でいっている数少ない会社だと思っています。そういう意味では「キャラが立っている」と思っています。
――私(光山)もそう思います。御社では、お客様がネット通販を行いたいという課題があればネット通販事業を支援し、食品衛生の不安があれば食品検査を代行し、人材に困れば採用支援を行い――と、実にさまざまなソリューションを展開されています。最近では「輸出・越境EC支援」も立ち上げられました。
ひとくちに「ソリューション」といっても、なかなかアイデアが出たり、事業化したりするのは難しいと思います。事業化のポイントは。
平木社長 お客様のお困りごとを日々営業がヒアリングして、データベースに落とし込んでいます。その中で、「(自社のリソースの)ピースを組み合わせればなんとか解決できるのではないか」とか、「専門の人材を雇って、少し背伸びすればできるのではないか」という課題に絞っています。かつ、お客様の課題が顕在化する少しでも前にソリューションに着手することが大事だと思っています。
――顧客の課題が深刻化した後では、競合もたくさん出てきますよね。
平木社長 そうですね。われわれがあらゆる業界のあらゆる課題を解決できるわけではありませんし、食品業界様のお困りごとに応えるソリューション・プロバイダーでありたいと思っています。
――ソリューションを切り口に、シール・パッケージ・包装資材の受注につなげていくというイメージでよろしいですか。
平木社長 はい。例えば食品開発OEMマッチングサイト「食品開発OEM.jp」は無償で情報を掲載させていただいていますが、食品を開発したい企業と製造する企業の両方がお集まりいただいているので、営業にとって貴重なリード(潜在顧客)の獲得手段になっています。

ただ、ソリューション事業の収支はトントンでいいのかといえばそうではなく、われわれもソリューション事業の収益化をめざしています。ただ現在は赤字で運営しているソリューションも多く、大きな先行投資をしている状態です。
――ソリューション営業という意味では、人材が鍵ですね。
平木社長 専門の方に顧問になっていただいたり業務提携したり、いろいろな方法を取っています。自社のリソースだけでは完結できません。ただ、キーとなる人材は1人は社内にいてもらうようにしています。スピード感もありますし、事業にフルコミットしてもらえるので。
いずれにせよ当社の営業は、シールの業務を覚え、パッケージの業務を覚え、包装資材を覚えたうえで、さまざまなソリューションも提案しなければなりませんから、大変ではありますね。人材教育にも大きな時間もコストもかけています。
「パッケージ印刷は経営難易度が高い」
――ソリューションももちろんですが、製品のQCDすべてに強い印象が御社にはあります。世界ラベルコンテストでは2019年、2023年の2度世界一に輝かれていますし、技能五輪の日本代表にも選ばれました。
平木社長 価格に関してはコストリーダーシップ戦略を採るわけではありませんが、ある程度の価格競争力がなければシェア争いはできません。
品質についても常に向上を目指していますが、世界ラベルコンテストに応募したのは「生産現場にスポットライトが当たってほしい」という思いからですね。生産現場はできて当たり前、クレームが起きたら厳しい目で見られる大変な職場です。彼らにスポットライトを当ててもらって、モチベーションを高めてほしいという思いがありました。
――環境対応にも力を入れられています。
平木社長 シール・紙器工場では国内唯一のCO2ゼロ工場です。(小規模工場ではなく)この規模の工場でカーボンゼロを目指すのはなかなか難しいと思いますので、もっとカーボンゼロを押し出していきたいと思っています。
――先日、御社の紙器工場を見学させていただいて、パッケージ印刷市場の参入障壁の高さを感じました。例えばグルアーの角度調整1つとっても、とても経験値とスキルがいる。商業印刷業界ではパッケージ印刷に進出して生き残ろうという動きがありますが、どうお感じになられますか。
平木社長 パッケージ印刷は非常に経営の難易度が高いと思います。1つは後工程で、印刷・トムソン・グルアーと最低3工程は必要です。その上に表面加工や箔押しがあります。それぞれに技術的テーマがあり、技術者も簡単に集まらない。在庫を持つ商習慣があり、資金力も場所も必要です。参入障壁はかなり高いと思います。
――最後に全国の印刷会社にメッセージはありますか。
平木社長 BCPや技術交流などでの面で、お互いにアライアンスを組めればと考えています。特にこの国は災害が多いですから、BCPなどで協力していかないと供給責任は果たせないと思います。
異業種とのアライアンスも今後もあるかもしれないですね。食品業界をはじめとしたお客様のソリューションが強化でき、われわれも企業として強くなれると思います。














