伸和グループ、リテール事業で地域密着ビジネスの足掛かりつかむ

印刷業を主力とする株式会社伸和(福岡市東区社領)は2017年、福岡市西区に「京都伊三郎製ぱん伊都店」を出店、リテール事業に進出した。コロナ禍やフランチャイザーの交代、そして物価高などの荒波にもまれながらも、2025年に8周年を迎える。木村奨社長は「西区の地域密着事業のシンボルとして機能している。『わざわざパン』より『まいにちパン』を目指したところが、流行に左右されやすいリテール事業でも健闘できている理由ではないか」と話している。

「伊三郎製ぱん伊都店」出店の理由

木村奨社長

株式会社伸和は1971年創業、従業員約150人の印刷会社。東区に本社を置いているが、西区の正光印刷、松古堂印刷の2社をグループ会社化し、西区における地域密着型印刷事業も展開している。

西区今宿で「伊三郎製ぱん伊都店」をオープンしたのも、西区の地域密着型ビジネスの一環である。店舗はもちろん、地元商工会議所などの会合などでパンを配ったり、地元のお祭りなどに出店をだしたりすることで、より地域活性プロモーターとしての位置づけが図れると考えた。

もちろん印刷業とは別の事業の柱にしたいという思いもあった。高級食パンなどのブームに左右されず、「100種類の100円パン」を掲げる「京都伊三郎製ぱん」のフランチャイジーとなり、2店舗を展開。将来的には510店舗に広げ、ゆくゆくは自社ブランドのリテール事業を展開する構想もあった。

コロナ禍により1店舗を閉店、さらにはフランチャイザーの交代などの混乱もあった。しかしそれ以上に打撃となったのは近年の物価高である。リテールは比較的価格転嫁はしやすいが、「100円パン」のワンコイン均一価格でブランディングしていた伊三郎製ぱんが値上げに踏み切ると、値ごろ感があまり感じられなくなったという。全盛期から比べると、売上に大きな影響が出たことは否めないとのこと。

それでも他の店舗に比べると大健闘している。西区は九州大学学研都市構想により人口が増え、立地も国道に面した絶好の場所。自店舗で新商品を開発して売り出したり、LINEや販促ツール「キュリア」を使った特売情報配信・抽選会などのデジタルマーケティング施策を行ったりして、地元に定着。2025年には8周年を迎える。

販促ノウハウ蓄積で印刷業とのシナジー

伸和グループとして大きな効果があったのは、この販促ノウハウを獲得したことである。木村社長は「印刷業は情報メディア産業。自分たちで販促施策を講じ、体験してみなければ、お客様に販促メディアを提案できない。そういう意味では、リテールでのデジタルマーケティング施策を生かし、印刷業との相互補完ができている」と話す。

同社には数社のグループ企業があるが、上下関係ではなく「スイミーのような一体経営」(木村社長)を目指している。「小さな魚(グループ会社)も1匹の大魚(伸和グループ)のように集まれば生き残れる。そういった意味でも伊三郎製ぱんは象徴的な存在。周年祭キャンペーンでは、私も含めて全グループの社員が一体となってキャンペーンに参加する」とその意義を話す。

フランチャイジー事業は、製造業とも、自社ブランド事業とも異なり、身軽に動ける利点もある。木村社長は「伊三郎製ぱんは西区の地域密着ビジネスのシンボルと考えているが、次のチャンスも生かしたい」と話している。

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