
大阪シーリング印刷株式会社(大阪市天王寺区)はOSPグループの中核企業で、連結売上高は印刷業界第4位で約1112億円、従業員約4600人(連結)の印刷会社。シェアトップのシール・ラベルはもちろん、軟包装フィルム・紙器パッケージなども展開している。武藤仁紀専務取締役COOに、同社の成長の理由と将来展望などを聞いた。
小ロット・多品種でコスト競争力を高める
――御社はなんといっても食品業界向けシールでシェアトップの33%を取られているシール業界のリーディングカンパニーです。その強みの源泉は何でしょうか。
武藤COO シールは弊社の祖業ですが、歴史的にみて大きな転機は1961年、「不乾燥粘着糊付レッテル製造方法」の特許を取得したことです。それまで日本ではシールを(現在の切手のように)湿らせて貼っていたのですが、今でいうセパレーター(剥離紙)方式のシールを開発しました。同時に全日本シール印刷協同組合連合会に特許譲渡分権し、シール業界の発展とともに自社も成長していった経緯があります。
シール市場は地元密着で小ロット・多品種を版替えしながらシール印刷機を廻していることが主流でした。弊社ではそういった生産性の課題に着目しました。多くの仕事を集めていくと、色など似たような製品が出てきます。それをまとめて印刷することで、小ロット・多品種でも生産性を上げ、なおかつコストを下げることができました。
――商業印刷でいう「グルーピング」をいち早く導入されたわけですね。
武藤COO そうです。多くの仕事を集めて機械を高稼働で動かすことでコストリーダーシップを取ってきました。それからISO取得など品質を高めていく努力も重ね、QCD(品質、価格、納期)を強化してきました。社会背景では高度経済成長とともに流通・小売業界も進化してセルフサービスが定着したことで表示のシール・ラベルの需要も急拡大していきました。弊社は計量器メーカー様と協業し、店頭販売用のシール・ラベルのシェアを一気に獲得できたのも大きな転機といえると思います。
――営業力も御社の強みですね。
武藤COO 当社の営業は約600人いますけれども、代理店様により全国展開していることもあり、販売網(ボリューム)を拡大できたこともコストリーダーシップを取ることができたと考えています。
――機械製造も自社で行われています。
武藤COO 垂直統合型の企業であることも当社の強みですね。印刷機、ラベラー機もグループ内で開発・製造しますし、タック紙も自社で製造しています。上流の原紙から作ることができるため、コスト競争力はもちろん、カスタマイズした製品を提供できることも強みです。ほかに企画・デザインも含めたワンストップサービスをお客様にご提供しています。

軟包装フィルムを成長ドライバーに
――主力のシールについて伺ってきましたが、近年はフィルムにも力を入れられて、2024年9月には門司工場(福岡県)に新しい棟(I棟)を増設しました。すでに売上180億円と伺っていますが、近い将来に250億円を目指す「われわれの成長ドライバー」と仰られていたのが印象的でした。
武藤COO 軟包装フィルム事業を開始したのは約30年前になります。シール・ラベルから軟包装フィルムにシフトしていくトレンドがあり、われわれもその市場動向に合わせて設備投資に力を入れてきました。シールの凸輪転機という自社のリソースを軟包装フィルムにも生かしましたが、それだけではお客様のニーズに応えられないということでグラビア印刷機も導入していきました。
――見学させていただきましたが(記事参照)、オペレーターがほとんどおらず、AGV(無人搬送車)だけが走り回っている近未来のような工場でした。やはり今後も効率化・DX化を推進していくという構想でしょうか。
武藤COO はい。弊社はシール・ラベル印刷のお客さまを基盤に軟包装フィルムや紙器パッケージをクロスセルさせていきたいと考えています。小口対応はOSPの得意領域があるので、生産性を上げつつオリジナルのポジションを築いていきます。
――どれくらいのロットがボリュームゾーンですか。
武藤COO 2000m前後の仕事が多いですね。フィルム専用工場である門司工場には1050㎜幅の軟包装フィルム用水性インクジェット印刷機も導入しましたので、小ロットにも柔軟に対応していきます。また、同機は環境配慮の面でVOC削減にもつながります。

スマート・ファクトリーで夢を現実に
武藤COO このように自動化・省人化を進めることは、オペレーターの負荷軽減にも繋がりますし、働きやすい職場環境としてエンゲージメントも高まります。そして、工場全体をアップデートすると同時に、創造的でワクワクする仕事に社員が取り組めることを期待しています。
実際、門司工場の責任者たちは「われわれが夢見ていたスマート・ファクトリーが実現しましたね」と驚きつつも将来の展望を話しています。イメージしていたことが実現した今、良いスパイラルとして回せていけば、さらなる成長ができると考えています。
――業界を取り巻く環境についてどのように考えていますか。
武藤COO 人口減少によって国内の食品包装材のボリュームは緩やかに減っていくなかで、軟包装フィルムのシェアを伸ばし、「第二の柱」として育てていきます。一方、すでにシール・ラベルは高いシェアを持っていますから、付加価値や機能性をさらに高めていきたいと考えています。
――すでにシールではさまざまな高機能製品を開発されています。
武藤COO これからはRFIDラベルなどで物流を効率化するなどのソリューションにも力をいれてきたいです。「2025年大阪・関西万博」では「大阪ヘルスケアパビリオン」にRFIDリーダー・RFIDタグ・RFIDタグ入りリストバンドを協賛しました。健康状態をデータ化し、生成技術により「ミライの自分」を体験いただく際のツールです。このようにシールをタッチポイントに社会課題を解決する仕組みも作っていきたいと考えています。
――環境問題も大きな社会課題です。
武藤COO 確かにこのままでは包装資材は(簡素化されて)減っていくかもしれません。しかしサステナブルという意味では、ビジネスチャンスでもあると思います。国内の人口減少は市場を伸ばしづらい要因になるため、ボリュームを維持・拡大するために、海外事業を強化していきます。まずは北米と東南アジアに注力して、日本の技術力や品質を世界に価値として提供していきたいと考えています。
その他は、DXとAIを活用した顧客創出、サステナビリティ、新規事業などイノベーション起こし、また弊社の「塗る」「抜く」「貼る」技術を組み合わせ、他の業界に展開することで、新たな価値創造ができると考えています。日本の製造業が明るくなるような夢のある業界にしていきたいです。












