【書評】ジョシュア・メイロウィッツ『場所感の喪失 電子メディアが社会的行動に及ぼす影響(上巻)』(新曜社)

同著は今から40年以上前の1985年に発表され、日本語訳は上巻しか出版されていない。「電子メディアが社会的行動に及ぼす影響」との副題があるが、当然「電子メディア」とはインターネットではなくテレビのことである。それでもこの本を解説したいのは、電子メディアと印刷メディアの特性の違い、そして電子メディアがいかに社会を変えてしまったかについての示唆に富んでいると思えるからだ。

メイロウィッツはテレビの普及によって、①集団的アイデンティティ、②社会化、③ヒエラルヒー(権威)のそれぞれにおいて、A広域どうしの融合、B裏領域の露呈、C場所の浸食――をもたらしたと指摘する。例えば地方の白人もスラムの黒人も均一な情報が提供されるため、アイデンティティ(伝統的なきずな)は弱まる。大統領のプライベートさえも公にされるため、公私の境がなくなり権威が失墜することもあり得る、リアルの交友とほぼ同等の「メディア・フレンズ」ができあがる、言葉のしゃべれない幼児や外国人にさえ伝わるため、何億人のオーディエンスを獲得できる――などである。

やはり注目したいのは、印刷メディアと電子メディアの対比である。メイロウィッツによれば、印刷メディアは「フォーマル」で「社会的な表領域のメッセージ」であるのに比べ、電子メディアは「インフォーマル」で「個人的な裏領域のメッセージ」である。

このことはインターネット時代、SNS時代にも当てはまると私は考える。ゲイであることを父親にカミングアウトする場面をYouTubeにアップし、マジョリティとの差別をなくそうとする行為は、やはりインフォーマルで個人的な裏領域のメッセージである電子メディアだからこそできる。

一方の印刷メディアは同じ演説でも、こわばった表情を伝えることも、緊張のあまり上ずった声や息遣いを伝えることはできない。しかし逆に言うと、こわばった表情や上ずった声を遮断することはできる。印刷メディアの活路はそこだ。すなわち、フォーマルで、社会的で、公式で、権威的なメッセージを、正しく伝えるメディアでありつづけるべきだ。

また、幼児すらメッセージを受け取ることができるテレビとは異なり、印刷メディアは難解なコード(文字や文法)を学習した人間にしか伝わらない。何億人に伝わるテレビには影響力でかなわない。やはり難解なコードを理解する知識人に向けてメッセージを発信することが、結果としてニッチメディアとなろうが、生き残ると思うのである。

おすすめの記事