【独占インタビュー】広済堂ネクスト、DSRで出版市場の「キャズム」を乗り越える

デジタル印刷機を出版印刷で活用する「デジタル・ショート・ラン(DSR)」の機運が高まっている。出版業界特有の、高い返本率や在庫コスト、再版見送りによる失注などの課題を解決できる武器だからだ。

株式会社広済堂ネクスト(東京都港区)は20269月から、長年の「パック方式」、商業印刷でいうギャンギングのノウハウを生かして「DSRサービス」を開始する。林太一執行役員新規事業推進本部副本部長と岩倉恒営業本部出版営業部担当本部長兼部長に、同社のデジタル印刷の歴史とDSRサービス開始の経緯を聞いた。

2015年から本格始動したデジタル印刷事業

 ――広済堂ホールディングスにおける、広済堂ネクストの事業領域から教えてください。

林氏 広済堂は印刷業を祖業として70年以上の歴史がありますが、2021年にホールディングス制に移行して、広済堂ネクストが設立されました。ホールディングスのセグメントは情報コミュニケーション、葬祭、人材の主に3つですが、情報コミュニケーションセグメントのほぼすべてを広済堂ネクストが担っています。ネクストは印刷が主になりますが、BPOITの事業領域も30年以上取り組んでいます。

――出版印刷にお強いイメージがあります。

林氏 はい。さいたまに工場がありますが、ほぼ出版印刷に向けた仕様となっています。ただ商業印刷と、デジタル印刷の設備もありますので、売上比率は出版印刷と商業印刷がほぼ半々です。

――デジタル印刷を本格稼働したのは。

林氏 2000年代から粉体トナー方式のPOD機を回していましたが、本格的にデジタル印刷に参入したのは福島印刷様(本社=石川県金沢市)と業務提携をした2015年です。2017年にはSCREENの連帳インクジェット印刷機「Truepress JET 520HD」を導入しました。

――出版印刷向けに導入したのですか。

林氏 いえ、福島印刷様は各種通知物にお強い会社ですが、関東圏に生産拠点がないことやBCPの観点から当社と業務提携しました。さいたま工場の地下に福島印刷様の、2階に当社の印刷設備を置き、2台体制にすることで、故障した際のバックアップ機能を持たせるとともに、急で大量の通知物にも対応できるようにしました。また同じセキュリティ体制とポリシーを採ることで、個人情報保護にも対応できるようにしました。

――するとDPS(データ・プリント・サービス)からスタートしたのですね。

林氏 そうです。ただ私どもは同時に中綴じの製本ラインも導入して、商業印刷のパンフレットなども生産していました。

 「パック方式」を確立し、満を持してDSRサービスを開始

――当時は講談社やKADOKAWAなどが大型のインクジェット印刷機を導入、内製化してかなり話題になりましたが、出版印刷向けへの提案はされなかったのですか。

林氏 いま挙がりました2社様は現在顕在化している課題(高い返本率、在庫、重版機会損失など)に対して強い意識をもって導入されたのだと思います。私も個人的には(2017年当時の)「今でも十分いけるだろう」と考えていたのですが、ほとんどの出版社様からはそういった機運がまったく上がらなかったです。

――その機運が約10年を経て、ようやく高まってきたのですね。出版業界から立ち上がった機運なのでしょうか。それとも印刷会社からの提案ベースだったのでしょうか。

林氏 それはもう、出版社様自らが、返本・在庫・物流・重版機会損失といった問題を看過できなくなってきたこと、なにより市場がさらに小ロット化して、いよいよオフセット印刷だけではままならないと、問題が喉元まで来たという実感を持たれたからだと思います。

また個人的には、KADOKAWA様が埼玉県所沢市の「ところざわサクラタウン」で最先端のデジタル書籍製造工場(BECファクトリー)を稼働させ、成功された事績を、各協会のセミナーなどで発表されて、出版業界各社様が意識を高められたことが大きかったと思います。

――そういった中で、いよいよ出版業界向けデジタル印刷サービス「DSRサービス」を20269月からスタートされます。プロジェクトが始動したのはいつごろですか。

林氏 実は、複数タイトルのページをまとめて生産することで、100部でも1000部でも同じ単価で提供できるサービスは、2020年から商業印刷のカタログ分野ですでに行っていて、ノウハウと運用実績も積み上げてきていました。当社では「パック方式」と呼んでいるのですが、それを出版印刷に展開しようと考え、社内でも合意形成を得られたのは2025年秋ごろからです。Truepress JET520 HDはそのままですが、新たにホリゾンの自動無線綴じラインを導入して、出版社様に提案することになりました。

パック方式の仕組み

 ――「パック方式」は、オフセット枚葉印刷でいう「ギャンギング」にあたるものですか。

林氏 その通りです。異なるジョブを付け合わせて小ロットでも低コストを実現するパック方式は、実は(業務提携した)福島印刷様がハガキで行われていた技術で、そのノウハウを教えていただいて今に至っています。 

初版10003000部をデジタル印刷で 

――DSRサービスのロットは何部くらいを想定していますか。

林氏 重版だと100部~1000部、初版だと10003000部くらいを想定しています。出版様でも企画会議などで「3000部いかないと企画が通らない」とされることも多いと思います。そういったニーズを拾っていければと考えています。

――出版社にとっても、著者が発表する場を提供する意味でも、とても意義があると思います。20266月に出版社説明会を開いたそうですが、反響はいかがでしたか。

林氏 大手から中小まで約50100名が参加してくださって、DSRに非常に関心があられるのだなと感じました。カラーページの入った一般書籍のサンプルをご用意しましたが、品質面のご不満はほぼありませんでした。やはり気になるのはパック方式のため紙が2種類に限定されることです。

岩倉氏 「斤量をもう一段上げてくれないですか」「変型は難しいですか」とのご質問をいただきました。

林氏 「(パック方式で)相乗りするからこの価格なのですよ」と説得させていただきました。当社では売価1500円の一般書籍でもきちんと出版社様に利益ができるように制度設計させていただいています。当社はコミックスや文庫の仕事が多いのですが、DSRサービスをきっかけに、一般書籍の新しい案件や出版社様とのお取引につながればと期待しています。

――初版が10003000部でも、ヒットすれば何十万部売れる可能性もありますよね。

林氏 (テストマーケティング的に)出してみなければわからないコンテンツはたくさん眠っていると思うのです。ヒットして、大ロットの重版がかかれば出版社様としても嬉しいでしょうし、その仕事を当社のオフセット印刷でやらせていただければ大変ありがたいです。

著者・出版社・印刷会社が適正な利益を分配できるプラットフォームを

――100部でも1000部でもこの価格が可能なのはすごいですね。

林氏 小ロット多品種の案件に営業パーソンが張り付くのはコストもかかります。当社では入稿の仕組みを(インターネットのインターフェイスで)作っていまして、出版社様が規格やロット、タイトルなどを入力して、PDFで原稿をアップロードすると、それで入稿が完了します。料金も自動計算します。基本的に営業レスで、そのためにこの価格が可能になりますし、出版社様にとっても営業がなかなかつかまらないといったご不便をおかけすることはありません。

DSRによって、新しい読書の姿が作れるかもしれません。可変印刷が可能で、例えばQRコードなどもバリアブルで印字できますから、ユーザー(読者)とのリレーション構築にも役立てると思います。

――最後に出版社のみなさまにメッセージを。

林氏 当社のサービスを例えますと、「500人乗りの飛行機を当社が飛ばします」ということになります。500人乗りで1人あたりの料金を設定していますが、200人、300人しか乗らない状況が続けば、やがて経営としてやめなければなりません。500人乗るから採算が合うサービスなのです。

今まで日本の出版は規格が多様なオーダーメイドが主流でした。しかしこれからは、本の仕様ではなく、これまで以上にコンテンツで勝負しましょう、というメッセージです。電子書籍も規格がEPUBに統一化されたことで多くの出版社が参加することになり、スマートフォンで誰でも見られるようになったことで普及しました。書籍においても仕様を統一化して、初期市場から主流市場への「キャズム(崖)」を乗り越えたい。出版社一社一社が1タイトルでもいいので参加していただくことで、著者・出版社・印刷会社の各プレイヤーが適正な利益を分配できるプラットフォームを育てたいと思います。

岩倉氏 「在庫なし」「重版未定」で年間100億円以上失注しているというデータもあります。売り逃していた部分を収益化して、ぜひ出版社と印刷会社がお互いに事業を継続できるようにしたいと考えています。

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