
株式会社田中紙工(埼玉県戸田市)は創業1962年創業、従業員73人の後加工会社。創業以来の高い断裁技術とブッシュ抜きといわれる抜きの生産能力で印刷会社からの信頼を得、近年は急拡大するトレーディングカード市場の勢いを得て売上を伸ばしている。同社の田中眞文社長と田中大貴専務に、「ニッチトップ企業」への歩みと展望を聞いた。
コンマ5ミリのズレが命取りの世界
――御社はトランプなどカード類の後加工で知られています。
田中社長 売上の9割はカード類です。ブッシュ抜き機(鋼の金型でまとめて押し抜く機械)は12台あり、後加工専業会社としては日本でも一番の保有台数だと思います。
――ブッシュ抜きの生産能力と生産技術が御社の強みですか。
田中社長 ブッシュ抜き自体は多少セットのノウハウが必要ですが、ブッシュ抜きの精度は断裁精度で決まります。裁ちが上手にできないと、いくら抜きがきれいにセットできても、(見当が)ずれてしまって正確に抜けません。当社は13台の平断裁機がありますが、職人の腕に頼るところが大きいです。
――印刷工場などが後加工までを自動化するスマートファクトリーなどが唱えられていますが。
田中社長 JDFで後加工機に指示を送って仕様通りに断裁する技術などはありますが、チラシやパンフレットなどはコンマ5ミリずれていてもヤレ(不良品)にはならなくても、トレーディングカードならばそのままヤレになります。急成長しているとはいえトレーディングカードはニッチ市場ですし、当面に大手ロボットメーカーが断裁のためにロボットを開発するともなかなか考えにくい。コスト的にもそうですが、スピードや精度などにおいてもまだまだ自動化は難しいと思います。
田中専務 そこが参入障壁だと思っています。
人を含めたセキュリティ体制
――最近、トレーディングカード市場が伸びていますが、勢いを感じますか。
田中社長 感じますね。コロナによる非常事態宣言で一時期ガタンと売上が落ちたのですが、巣ごもり需要でトレーディングカード需要が伸びて、V字回復しました。コロナ明けもずっと伸び続けています。要因としてはキャラクタービジネスの伸長もそうですが、インバウンド需要も大きいのではないでしょうか。
――トレーディングカードの最近の傾向などはありますか。
田中社長 品質要求は非常に高いですが、カード類の加工の品質要求は昔から一貫して高いです。
田中専務 海外の仕事が増えたというのはありますね。海外のIP(知的財産権)の商品もありますが、最近は日本のIPのトレーディングカードも多言語対応になったりしています。
田中社長 印刷産業は基本的に売られるところで作るドメスティックな(内需型の)産業ですが、円安効果もあるのか、海外にも輸出されます。
――ニッチトップ、しかも「グローバルニッチトップ」ですね。値崩れもしない。
田中専務 今はどのカード業界も、「値段はいいから、とにかく作ってくれ」という状態です。
――そうなのですね。今後生産設備を増強するお考えは。
田中社長 もちろん考えていますが、急に設備を増強しても、人材がいなければ仕事は回らないので、今は人を育てることが一番大事だと考えています。機械さえ買えば仕事が回るのなら大手企業がそうしているでしょうし。
――御社ではオペレーターの数も多いですか。
田中社長 今日も13台の断裁機がすべてフル稼働しています。13人、それ以上の職人が必要だということです。
――ベテランが多いですか。
田中専務 ベテランも多いですが、中堅も、それから入社3年以内の社員も相当数います。
――3年以内でもトレーディングカードを製作できるものですか。
田中専務 若手にはステップバイステップで簡単な仕事からこなしてもらいます。トレーディングカードを任せられるには5年以上、レアカードなど全部任せられるには10年以上かかります。
――なるほど。やはり匠の世界なのですね。セキュリティ面は。
田中社長 製本・紙工会社は一般にセキュリティ面が弱いのですよ。当社は電子認証で専用のICカードがないと出入りできませんし、監視カメラもついています。入退室のログも取っています。トレーディングカードは「金券」のようなものなので、金券を扱っていると思ってセキュリティ体制を築いています。社員とは守秘義務契約を必ず結びますし、絶えず社員教育をしています。人的な意味でもそうです。

――卒業アルバム製作会社などでは繁忙期にパートタイマーを大量に集めて、総出で仕事をこなすなんてことができますが、トレーディングカードはそうはいかないのですね。
田中専務 社員一人がSNSで呟かれたら一発でアウトですから。身元がはっきりした人材しか雇用できないという面もあります。
オンデマンドビジネスで市場開拓
――田中社長は全日本製本工業組合連合会会長も務められていますが、コラボレーション展やペーパー展などでの紙工会社の存在感がとても感じられます。紙工の創意工夫というか。
田中社長 フィニッシングという最終工程ですから消費者に近いところにいますし、アイデアが生まれます。逆の見方からすると印刷会社さまはグラフィックを軸にウェブに展開しようとか、顧客企業のマーケティングサービスをしようといった方向に向かえますが、紙工会社は紙しか扱えない人材や設備なので、紙工のアイデアを一生懸命練ります。紙工会社の活気というより、必死なのです。
全製工連では印刷会社と出版社以外の「第三の市場」を開拓せよ、というビジョンを掲げていますが、当社ではBtoC(対消費者ビジネス)を開拓しました。2012年にオンデマンド印刷機を導入して「オンデマンドトランプ.com」を開設しました。今はリコー機1台と専従3人がついています。

――オンデマンド事業の現状と展望を。
田中専務 今は売上の5%程度ですが、着実に売上は伸びています。今後は表面加工や箔押しなどの後加工機を導入して、一枚からでもレアカードを作れる体制を築きたいです。プレイに適したプラスチック素材のオリジナルトランプを製作して、カジノなどに提供していきたい。消費者だけでなくプロ仕様のオリジナルトランプならば、市場はさらに広がると思います。
またトレーディングカードに関しては、国道や島を切り口にしたトレカが開発されるなど、切り口が無限にあります。当社でも『ナンドシー』というカードゲームを開発しました。「ぽかぽか」は言葉のイメージから何度だと思うかなどの体感から出題者が予想した温度を当てるゲームです。
カードを軸に川上(企画)から川下(製造)までを広げていけば、市場は作れると思っています。顧客の課題に対して答えていくことで市場が作れます。例えば地方のコンテンツやIPを活用して地方創生をやりたいというお客様がいれば、それにカードゲームやトレーディングカードという形で応えればいい。
また、守秘義務のない自社のカード商品を開発できたことで、工場で職人がカードを製造する工程を動画に収め、SNSで配信することもできるようになりました。ブランディングの面でも効果があったと思います。

お客様の課題解決を
――最後に田中社長と田中専務のお二人にコメントをいただきます。まず田中社長から、印刷業界へのメッセージを。
田中社長 各製本会社はフィニッシングのプロですから、製本会社も企画から巻き込んでいただきたいです。まだまだ紙にはデジタルにはない良さがありますから、きっとみなさまの商売のお役に立てると思います。
――先日、首都圏の別地域に工場がある印刷会社の経営者の方が、「戸田に工場があったら後加工に苦労しないのに」と何度もおっしゃっていたのが印象的でした。製本会社と提携することでさまざまなメリットが生じると思います。田中専務には田中紙工の展望をお聞きします。
田中専務 全国印刷緑友会の70周年イベントの大会実行委員長を仰せつかるなどして、同世代を含めた仲間とコラボレーションしたいという思いを強くしています。田中紙工としてはカードを軸にしてお客様の課題解決をしたい。需要に応える供給体制も早急に構築したい。それから、私自身も現場に縛られてばかりいると、なかなか経営に参画できませんし、会社もスケールしません。もちろん売上がKPIではありませんが、社員とともに会社を成長させていきたいです。








